若葉という存在

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「あっ、ちょっとごめんね」 「もしかして彼氏?」 若葉は笑顔で頷くと、携帯をタップした。 「もしもしリヒトさん?」 ー ー ー ー ー 「今から?」 ー ー ー ー ー 「今友達が」 もしかして、今から来るって言っているのか、若葉の困った表情が切ない。 秀華は若葉の肩を軽くポンポンと叩くと、指で自分は帰るから、そうジェスチャーで伝えた。 若葉は片手でゴメンと謝る。 秀華は笑みを浮かべ頷いた。 「ええ、わかったわ。えっ! もう駅⁉︎ 」 ……… 「はい、気をつけて」 若葉は電話を切ると、今度は両手を合わせた。 「秀ちゃん、ごめんなさい!」 「どうして謝るの? それより、私、肉じゃがいっぱい食べちゃったけど大丈夫? 彼氏、お腹空かせてくるんじゃない?」 「大丈夫よ」 「それならいいけど……」 「ホントごめんね」 「もう、謝らないで。あっ、そうだ! よかったら携帯の番号教えてもらっていい? 私持ってないけど、高校卒業したら持つつもりだから、その時のために」 「もちろんよ。ちょっと待っててね」 若葉はメモに番号を書き、秀華はそれを受け取った。 「ありがとう」 「携帯持ったら連絡ちょうだいね」 「うん」 「そうだ、秀ちゃん、今東京には住んでないって言ってたけど、遠くにいるの?」 " 熊本" そう言おうとしたが、秀華は飲み込んだ。 何故か言ってはいけない気がしたのだ。 「うん、ちょっと遠いかも」 「そうなんだ……」 「じゃあ私は行くよ。若葉、元気でね」 「秀ちゃんもね」 寂しさを押し殺し、秀華はアパートをあとにした。寂しいというより、嫉妬にも似た感情かもしれない。 駅に向かいながら、長尾との会話を思い出し、自嘲した。 『泊まっていけって言われなかったよ……』
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