若葉という存在

11/13

104人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
ファーストセキュリティ侵入を許してしまったのは、誤入力という初歩的以前のあり得ないミスだった。シンディーが対処してくれていなければ、企業に大損失を与え、信用を失うところだったのだ。 落ち着きを取り戻した秀華にシンディーは言った。 「私たちの仕事は信用を無くしてしまった時点でアウト。次はない。だから、何があっても冷静でいなければならない。例えば、秀華の目の前で私が殺されていても、取り乱してはいけない。それくらいの冷静さが必要な仕事なのだ」と。 そして、何があったのか説明しろ、と。 秀華は事の全てを説明した。若葉が自殺を図るなんてことは信じられない! 力強く訴えた。 シンディーが長尾とモニターを繋ぐ。 モニター越しの長尾は、全てを把握しているようだった。長尾の悲愴な面持ちがそう語っている。 言葉をなくす秀華。 沈黙が漂う中、長尾が静かに口を開いた。 「何があったのか調べてみるか?」 「いいの?」 「真実を知りたいんだろう?」 「うん」 「だが、お前にはやらなければならない仕事がある。担当している企業との契約が満了するまで、そっちに集中しろ。お前が望むなら、契約は更新せずに日本に帰ってくればいい。それまでは俺が情報を送ってやる」 秀華がモニターに映る長尾からシンディーに視線を移すと、シンディーは黙ったまま頷いた。 「まずは若葉さんの容体だ。良一くんに確認しろ。そして、ちゃんと話せ」 「うん……」 秀華は良一の携帯に発信した。 秀華の携帯は複雑な経路になっており、発信元が特定できないようになっている。番号を知っているのは、長尾とシンディーだけだ。だが、園長から連絡をもらった長尾が事態の重大さを考慮し、秀華と連絡を取りたがっていた良一に番号を教えたのだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加