98人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
「水を差したくなかったんでしょう?」
秀華は長尾を見据える。
「本当は、話そうと思ってたんだよね? 師匠、私があの料亭にいるって知った時、凄く慌ててたもん。今思えば、そういうことだったのかって納得」
「・・・」
「あの日、若葉と会った日、若葉、凄く幸せそうだった。仕事も、恋も、本当に充実してるって感じで。不幸って文字なんかどこにもなかった。師匠も、私の話からそう受け取ったんでしょう? だから言えなかった。違う?」
「秀華……」
「多分、あの時話してくれてても、私、聞く耳持たなかったと思う。でも、今の私は違う。全てを冷静に受け止められる。恐ろしいくらい冷静に」
若葉の自殺未遂を聞き、感情をコントロール出来ずに取り乱してしまい、シンディーに喝を入れられ現状に戻ってきた時、感情というものをどこかに置いてきてしまったのではないのかと思えるほど、あの時から俯瞰的に物事を捉えるようになっていた。
「ねぇ、師匠」
「ん?」
「若葉、言ってたんだよ。無理のない程度で投資をやってるって。メガバン勤務で、女将が凄く信頼してる人に勧められたんだって。で、あいつ、日帝銀行でしょ、投資勧めたのって、あいつだと思うんだけど」
「だろうな。そいつの名前、高遠理人か?」
「えっ⁉︎」
「ビンゴ、だったか……俺が甘かったな……」
「師匠、どこまで調べついてんの?」
「どこまでって言えばいいのだろうか……」
「じゃあ、高遠理人について、教えてよ」
秀華は長尾の目をしっかりと見据えた。
最初のコメントを投稿しよう!