101人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
これから産婦人科へ行き、ピルを処方してもらう。これも結婚当初からずっと続けている事。
マンションから歩いて15分程の場所にある産婦人科に到着すると、受付を済ませロビーで待つ。
三年も通う常連なので慣れたものだ。
理人は子どもを欲しがらない。それは結婚前からわかっていたこと。子どもはお荷物だと思っている。理人にとって、この世で一番かわいいのは自分自身なのだ。
初めてこの産婦人科を訪れた時、処方の理由を訊かれた。
「夫が子どもを欲しがらないんです。いつまでも新婚のままでいたいからと、そう言うんです。私は仕事をしていないし、夫に養ってもらっている立場です。自分の子を抱きたい気持ちはありますが、夫の気持ちを尊重したいと思っています」
その場にいた全員が憐れむ表情を見せた。そして女医は言う。
「あなたもご主人と同じ考えなら、何も言わないでおこうと思っていたんだけれども、それはモラハラよ」
「モラハラ、ですか……」
「ええ」
ここにいる女医も、看護師も、秀華がモラハラを受けていると認識しているのだ。
診察に訪れている妊婦のお腹を触らせてもらったり、鼓動を聴かせてもらったりする秀華の姿に憐れむ看護師たち。
「高遠さん、旦那さんに支配されているみたいよね」
「暴力は受けてないみたいだけど」
「目に見えるものだけが暴力じゃないわ!」
『そう、私はモラハラを受けている。何も言えない妻なのよ』
秀華は心の中で呟きながら、笑顔で妊婦のお腹を撫で続けた。
最初のコメントを投稿しよう!