104人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
ピルを処方してもらい、近くにある公園のベンチに腰掛ける。
幼い子どもを連れた母親たち。我が子を見守る優しい眼差しが、穏やかな時間を紡ぎ出す。
秀華の表情に笑みが浮かんだ。
「秀華さん」
小柄な女性が秀華を見つめている。
表情は険しい。
隣に腰掛けると、秀華の膝の上にA4サイズの茶封筒を置いた。
「朱美さん……」
相澤朱美、産婦人科で出会った女性だ。妊婦健診に訪れていた。たまたま隣に座ったことで話をするようになった。秀華の現状を知り、面倒見の良い朱美は、出産後も秀華のことを何かと気にかけている。
理人が浮気をしているようだと溢すと、積極的に動いてくれた。
「私はあなたの味方だから。私だけじゃない、主人もよ。他にできることがあれば何でも言ってね」
「ありがとう、朱美さん」
「今日、ご主人は? 遅くなるって?」
「ええ、遅くなるから先に寝てろって」
「最低ね、ご主人も浮気相手の部下も」
朱美が吐き捨てた言葉には嫌悪が滲んでいる。
「でも、もうすぐ終わるから」
秀華は微笑んでみせた。
そう、これから待っているのは、高遠理人の妻としての終幕だ。
「秀華さん、無理して笑わなくていいの。自分の心を押し殺していると、いつか壊れてしまう。ねぇ、また拓海の顔を見に来てやってくれないかしら。あの子、秀華さんのことが大好きなのよ」
「拓海君は保育園?」
「そう、ママと離れたくないって駄々こねてたけど、今はもう、ね。子どもの適応能力は凄いわ」
「うふふ、目に浮かぶ」
「あっ! 大切なことを忘れてたわ」
朱美は肩掛けにしていたバッグの中を覗き込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!