妻という役

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ピルを処方してもらい、近くにある公園のベンチに腰掛ける。 幼い子どもを連れた母親たち。我が子を見守る優しい眼差しが、穏やかな時間を紡ぎ出す。 秀華の表情に笑みが浮かんだ。 「秀華さん」 小柄な女性が秀華を見つめている。 表情は険しい。 隣に腰掛けると、秀華の膝の上にA4サイズの茶封筒を置いた。 「朱美さん……」 相澤朱美(あいざわあけみ)、産婦人科で出会った女性だ。妊婦健診に訪れていた。たまたま隣に座ったことで話をするようになった。秀華の現状を知り、面倒見の良い朱美は、出産後も秀華のことを何かと気にかけている。 理人が浮気をしているようだと溢すと、積極的に動いてくれた。 「私はあなたの味方だから。私だけじゃない、主人もよ。他にできることがあれば何でも言ってね」 「ありがとう、朱美さん」 「今日、ご主人は? 遅くなるって?」 「ええ、遅くなるから先に寝てろって」 「最低ね、ご主人も浮気相手の部下も」 朱美が吐き捨てた言葉には嫌悪が滲んでいる。 「でも、もうすぐ終わるから」 秀華は微笑んでみせた。 そう、これから待っているのは、高遠理人の妻としての終幕だ。 「秀華さん、無理して笑わなくていいの。自分の心を押し殺していると、いつか壊れてしまう。ねぇ、また拓海(たくみ)の顔を見に来てやってくれないかしら。あの子、秀華さんのことが大好きなのよ」 「拓海君は保育園?」 「そう、ママと離れたくないって駄々こねてたけど、今はもう、ね。子どもの適応能力は凄いわ」 「うふふ、目に浮かぶ」 「あっ! 大切なことを忘れてたわ」 朱美は肩掛けにしていたバッグの中を覗き込んだ。
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