妻という役

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これで証拠は揃った。 秀華は茶封筒をトートバッグにしまいマンションに戻ると、自室に置いてあった3冊の家計簿もトートバッグに入れ、事前に連絡していた弁護士事務所に向かった。 離婚問題のスペシャリストだと朱美から紹介されている。正確には、探偵事務所を開業している朱美の夫、達彦(たつひこ)からの紹介だ。 弁護士事務所には、夫が浮気をしているようだ。離婚したい。証拠は相澤探偵事務所を通して調べてもらったものを持っていくと伝えている。 都内にある古ぼけたビルの2階にその事務所はあった。 スケルトンのドアの向こうに受付カウンターは見えるが人の姿はない。 ドアを開けるとカランカランと音が鳴り、奥からぽっちゃり体型で愛嬌のある顔立ちの女性が姿を見せた。 「すみません、高遠と申します」 「あっ、高遠さん、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」 秀華は応接室に通され、黒皮のソファーに腰掛けるよう促された。 まもなくドアがノックされ扉が開くと、パンツスーツスタイルで、黒髪を後ろの低い位置で一つに束ねた長身の女性が秀華の元へ歩み寄った。 『40歳前後といったところか……』 秀華は立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。 「初めまして、高遠さんでいらっしゃいますね?」 「はい」 彼女はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出し、その中の一枚を秀華の前に差し出した。 「弁護士の小野寺(おのでら)と申します。高遠さんの弁護を担当させていただきます。よろしくお願いいたします」 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」 「どうぞ、おかけになってください」 「失礼いたします」 お互い向かい合わせで腰を下ろす。 「早速ですが、依頼内容は離婚ということで間違いないでしょうか? 浮気が原因とのことなので、慰謝料も、ということですね?」 「はい」 「では、ご主人についてと、結婚されてから、今日に至るまでの生活についてお聞かせください」 「わかりました」
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