妻という役

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秀華は姿勢を正し、小野寺に経緯を説明した。 「旦那さ、あっ、夫は高遠理人、35歳。日帝銀行で課長をしております。勤めていた料亭で出会い、三年前に結婚いたしました。私は仕事を辞め、専業主婦をしております。 お金の管理は主人が担当するとのことで、結婚してすぐに、100万円の入った私の預金通帳と印鑑を渡しました。毎月の生活費として4万円を手渡されています。その中で食費、日用品、医療などをやりくりしています」 「ちょっと待ってください! 4万⁉︎ 日帝銀行の課長ともなれば、年収は1,500万は下らないはずですが!」 「そうだと思います。私は明細を見せてもらえないので、産婦人科で出会った方が教えてくれました。夫は毎日帰りが遅く、夕飯は殆ど外で済ませてくるので、なんとかやりくりができている状態です」 秀華はトートバッグから三冊の家計簿を取り出し、目の前にあるテーブルの上に置いた。 「これは結婚当初からつけている家計簿です」 小野寺が手に取りページをめくる。 「これは素晴らしい。もしかて、うちに払う着手金20万もこの中から?」 「はい、何かあった時のために取っておいた分を……」 「そうですか…… 先ほど産婦人科とおっしゃっていましたが、毎月支出が計上されていますね。もしかして妊娠していらっしゃるのですか?」 「いいえ、そうではありません。結婚当初から夫は子どもを望んでいないので、ピルを処方してもらっているんです」 「高遠さんご自身も望んでいらっしゃらないのですか?」 「それは……」 「高遠さん、ご主人のことをなんと呼んでいますか?」 「え?」 「理人さん、ですか?」 「旦那様、です」 「…… 」 「私は夫の稼ぎで生活させてもらっていますので……」 「高遠さん、夫婦は対等なんですよ」 「そうですよね、それをようやく気づいたんです。ですので、こうして相談に伺いました」 「よく決心されました」 「はい。背中を押してくださった方がいらっしゃいますので」 「その方のご主人が押さえた証拠を見せてもらえますか?」 「はい」 秀華は茶封筒ごと小野寺に手渡した。
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