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織田は宙に広がる赤い血、そして祠の石、と順番に視線を送る。そうやって状況を把握しようと努めていた。険しい目つきであったが、それが次第に緩和されていく。
広がった赤い血の動きが穏やかになっていくのが、わかったからだろう。
最初は雅を包み込み、その赤い色と怨念で染め尽くそうと狙っているかのようだったが、彼女の放つ思いと光に気押され、踏み込めなかった。そして、次第に「大然」の術力によって荒ぶる念が治まっていった……と、そんなふうに感じられる。
雅が何度目かの「大然」に入ろうかという頃、祠の中で、石がボロボロと崩れ始めた。細かな砂利となり地面へと落ちていく。
それと同時に、宙に広がっていた赤い血が霧散した。自然の中へと溶け込んでいったようだ。
ふう、と息を吐き出し、動きを止める雅。
「終わったようだな。ご苦労様」
織田が労うように言葉をかける。いつもこの時だけは、優しさを感じさせた。
「はい。これで、この地に頻発していた怪異は治まるでしょう。よかった……」
雅は笑みを浮かべ、空を見上げる。心地よい疲労感に身をゆだねた。
「これを使うことなく終えられた」
手の中にあるスイッチのような物を操作する織田。とたんに、先ほど地面に設置した小さな機器から眩い光が発せられる。
小型投光器だ。「人ならぬもの」は光を嫌うので、多少怯ませることができる。もし雅だけで抑えきれない場合には使うつもりだった。今回はその必要はなかったようだ。
「少しずつだが、君の力も高まっているみたいだな」
織田がそう言うが、雅は疑問を表情に浮かべる。
「そうでしょうか?」
力が高まっていると言われても、実感はない。自分としては、子供の頃からやって来たことを繰り返しているだけだ。ただ、そこに思いを込めるようにはなったが……。
「まあ、今回の『人ならぬもの』はそれほど強力ではなかった、というのもあるがね。中級くらいか? だから、慢心してはいかんぞ」
「慢心するほどの自信はないですから、大丈夫です」
正直に応える雅。
「そうか? 普段はちょっと褒めただけで調子にのるくらい単純なんだがな」
「な、なんですって……?」
チラッと横目で睨む。だが織田は何とも感じていないようだ。ふっと笑って歩き出す。河原へ、そしてその向こうに停めた車へ戻り始めた。
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