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 おかしいな……。  岸本静夫は車を降りると、(あた)りをキョロキョロと見まわした。  見失った? そんな馬鹿な……。  人けの全くない林道の途中だった。少し離れた場所を川が流れている。あれは相模川だ。あと数分進むと大きな河原になる。毎年大々的に厚木市花火大会が開催されるが、その近くだ。  だが、ここはまだ厚木の手前、座間市内との境目辺りだろう。  人を追っている。新興宗教団体『今大宝房』の教祖、天満(てんま)行徳(ぎょうとく)だ。団体の幹部である巳城(みしろ)仁司(じんじ)という男が運転する車に乗っていた。  一本道で交差点はない。ずっと先まで見通せたが、車はどこにもなかった。  ……っていうことは、まさか林の中へ走り込んで行ったっていうのか?  尾行に気づかれたのかも知れない。それで慌てて逃げたのか?  とはいえ、こんな所に入ってもいずれ行き止まりになるのではないのか?  疑問を感じながら、林の中へと足を進める岸本。  あちこち歩きまわっていると、草がタイヤで踏みならされているような箇所があった。  やっぱりそうか。無茶なことしやがる。  どうするか迷ったが、歩いて少し追ってみることにした。立ち往生しているかもしれない。そんな様を見るのもいいだろう。  岸本はフリーのジャーナリストだ。主に社会問題や政治に関するスキャンダルを追うことが多い。このところ、今大宝房が与党民事党の一部と癒着をしている気配があり、追っていたのだ。  天満は今日、横浜市境谷区にある教団本部から座間市内までやって来て数名と会っていた。政治家や財界人が主だが、岸本には素性のわからない若者なども含まれている。  今大宝房はそれほど信者数は多くないし、無理な勧誘で増やそうという動きも見られない。むしろ少数で秘密裏に何か活動をしているような、怪しげな面があった。それが気になるところでもある。  しばらく進んでみたが、車は見当たらない。どこまで行ったのか? エンジン音も聞こえないのは不思議だ。
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