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今度は悲鳴さえ出せない。逃げなければと思うのだが、がくがくと震える足は思うように動かない。腰を抜かさないだけましだったのかもしれない。
じわりじわり、と4体の骸骨がこちらに向かってくる。しばらくするとそれぞれが黒い靄のようなものを纏い、骨が見えなくなる。
黒いのに不思議な光を発する靄だった。闇の中でもその形がわかる。まるで筋骨隆々の鬼の影のようになった。そして、それぞれの目の部分だけが赤く光っている。
「うっ、うわぁ~っ!」
いよいよ恐ろしさに堪えきれず、叫ぶとともに体を無理矢理動かした。必死に走り出す。
林の中を、枝で頬に傷つけようが、木に肩をぶつけようが、かまわず走る。
ふくめつ、ふくめつ……。
あの声が追いかけてくる。
はあ、はあ、うぷっ、うぐっ!
息が切れ、心臓が高鳴りすぎて胸が痛む。それでも足を止めるわけにはいかない。
ようやく木々の向こうに明かりがさし、自分の車が見えた。あれに乗れば、逃げられる。
だが……。
背後から何かが、岸本の右腕を掴んだ。ものすごい力だ。
それにより止められてしまう。
背後を見ると、黒い靄に纏われた大きな姿。赤く光る目。しかし、腕を掴んでいるのは白骨のままだった。そこだけ靄が薄い霧のようになっている。
「や、やめ、やめろ……」
ようやく声を出すものの、相手に通じるはずもなかった。
他の3体も飛びかかってきた。岸本はあっという間に組み伏せられる。
首、肩、腹、腰へと食らいつかれ、自分の体から血飛沫があがるのを見た。それを最後に、岸本は意識を、そして命を失った。
黒い靄を纏った骸骨達は、岸本の体から血を吸い尽くすと、その両手両足、首を引き千切り、中の一滴までなめまわす。
月の光さえも赤く染まっていくかのようだった。
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