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実は、彼が子供の頃に将来は刑事になると言っていたから、響希も警察官を目指したのだ。
村一番の名家の一人娘だったので、良いお婿さんをとって家を継いでいくのが幸せなことだぞ、と大人達からよく言われた。それが嫌で、自分も何者かになりたくて、一馬の夢に同乗させて貰ったような感じだ。
経済的な問題があったのか、家も村とともに廃れ、お嬢様でも何でもなくなったのだが……。
一馬との関係は、元々どちらも奥手で進展せず、距離も離れ、それぞれ仕事も忙しくなったことからほぼ自然消滅した感じだ。とはいえ、今でもたまに連絡を取り合うのだから、不思議なものだと思う。幼なじみで大切な友達――いや、友達以上である事には変わりない。
もしかしたら、いずれはまた彼と……? いや、それはないよね。何しろ私には………。
淡い思いを首を振って追い出したところで、不意に前に人が現れた。
「あっ?!」
思わず声をあげ、立ち止まる響希。
「こんばんは。突然すみません」
相手は深々と頭を下げた。しかし、そこに謝意があるようには感じられない。
「昨日もお断りしたはずですよね?」
響希が強い口調で問いかける。
「お気持ちが変わるまで、お待ちします」
相手の男、巳城仁司が言った。慇懃無礼、という言葉が似合いそうだ。
「変わることはありません。もう、私の所に来るのはやめてください」
キッパリとそう言い切り、再び歩き出す響希。
「あなたのお力を、眠らせておくのはもったいないですよ」
巳城が背後から声を浴びせてくる。
無視して歩き続ける。脳裏に一馬の顔が浮かんだ。そして、17年前のあの出来事、更に2年前の事件も思い出される。
私はどうすれば……?
響希の胸は黒い雲に覆われたようになった。
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