2/2
前へ
/251ページ
次へ
 実は、彼が子供の頃に将来は刑事になると言っていたから、響希も警察官を目指したのだ。  村一番の名家の一人娘だったので、良いお婿さんをとって家を継いでいくのが幸せなことだぞ、と大人達からよく言われた。それが嫌で、自分も何者かになりたくて、一馬の夢に同乗させて貰ったような感じだ。  経済的な問題があったのか、家も村とともに廃れ、お嬢様でも何でもなくなったのだが……。  一馬との関係は、元々どちらも奥手で進展せず、距離も離れ、それぞれ仕事も忙しくなったことからほぼ自然消滅した感じだ。とはいえ、今でもたまに連絡を取り合うのだから、不思議なものだと思う。幼なじみで大切な友達――いや、友達以上である事には変わりない。  もしかしたら、いずれはまた彼と……? いや、それはないよね。何しろ私には………。  淡い思いを首を振って追い出したところで、不意に前に人が現れた。  「あっ?!」  思わず声をあげ、立ち止まる響希。  「こんばんは。突然すみません」  相手は深々と頭を下げた。しかし、そこに謝意があるようには感じられない。  「昨日もお断りしたはずですよね?」  響希が強い口調で問いかける。  「お気持ちが変わるまで、お待ちします」  相手の男、巳城(みしろ)仁司(じんじ)が言った。慇懃無礼、という言葉が似合いそうだ。  「変わることはありません。もう、私の所に来るのはやめてください」  キッパリとそう言い切り、再び歩き出す響希。  「あなたのお力を、眠らせておくのはもったいないですよ」  巳城が背後から声を浴びせてくる。  無視して歩き続ける。脳裏に一馬の顔が浮かんだ。そして、17年前のあの出来事、更に2年前の事件も思い出される。  私はどうすれば……?  響希の胸は黒い雲に覆われたようになった。
/251ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加