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翌日もまだ、署内には重苦しい雰囲気が漂っていた。
響希が朝出勤してみると、捜査本部の方ではこれから会議が開かれるらしく、騒然としている。
交通課の響希は事故に関する捜査が主で、たとえば轢き逃げや当て逃げ、その他の違反者の検挙を目指す。方法はまったく違うし、あれほど大きな捜査体制の中に属したこともない。
どんなものなんだろうなぁ……?
ふと足を止め、興味のままに捜査本部が設置された大会議室を眺めていると、響希の横を1人の男性が通り過ぎた。
座間署内で見かけたことはないので、県警から来たのだろう。
年代がよくわからない。自分よりずっと上だということは見てとれたが、スーツをきちんと着こなした様は紳士然としており、刑事っぽさはあまり感じられなかった。何かの研究者や企業の重役だと言われても納得できそうだ。
何気なく見ていると、その男性も立ち止まり、こちらを向いた。
あ、失礼だったかな?
慌てる響希。少し視線を向けるのが長すぎたかもしれない。ここであからさまに目を背けるわけにもいかず、ぺこりと頭を下げた。
敬礼の方が良かったかな?
そんな戸惑いを見せていたところ、男性はつかつかと彼女に歩み寄ってくる。そして正面に立った。
「あ、すみませんでした」
再度頭を下げる響希。
「なぜ謝るんだね?」
男性が訊いてきた。キョトンとしている。特に怒っているようでもない。
「い、いえ、県警の刑事さんかなぁ、って思ってじっと見ちゃって……」
「確かに県警から来たが、君のように若くて可愛いお嬢さんに見られるのは、嫌ではない。逆にこちらからも見させてもらって目の保養にもなるしね」
響希の頭の先から足元まで視線を巡らせて、男性が笑った。
え? っと息を呑む。ちょっとセクハラ気味かなぁ……?
「若くて見た目は多少良くても、がさつでたまに乱暴なことを言ったりやったりする女性もいるけどね。まあ、それはいいとして……」その男性は記憶をたぐるように視線を上に向けた後、響希の顔を再び見た。「君は、ここの署員かね?」
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