180人が本棚に入れています
本棚に追加
「元気だった?」
「う、うん。あなたも元気そうね」
当たり障りのない言葉をかけ合う。しかし、その後が続かない。懐かしい相手との突然の再会が意外な状況すぎて、戸惑っていた。
「もしかして、あの事件の捜査?」
チラリと捜査本部の方を見てから尋ねると、一馬は応えに困ったように言葉を探す。そして軽く頷いた。
「まあ、そうとも言える。この事件だけについて調べるわけじゃないんだけどね」
曖昧な返事だが、響希は合点がいった。彼はおそらく公安捜査官だ。しかしそうなると、この事件の裏には何か複雑なことが隠されているのか?
「あ、あの……」
何かを言いかけて口ごもる一馬。響希はすぐに彼の懸念がわかった。なので、明るい口調で先に話し出す。
「大丈夫。もう引きずってないよ」
「え?」
「2年前のあの事件のことでしょ? 引きずってたら警察官やってないって」
事件後すぐ、彼の方から連絡があった。その時にも同じように応えたし、以降も普通に会話していたが、やはりまだ心配してくれていたのだろう。今回の事件がそれを膨らませたのかもしれない。
「そう。それならいいけど……」もっと話を続けたいが同時に捜査本部の方も気になる、という感じだ。意を決するように響希を見た。「今度時間を見つけて、ゆっくり話さないか?」
「う、うん、そうだね……」
しっかりと視線を向けられて戸惑いながらも、頷いた。
「じゃあ、連絡する」
そう言って一馬は、名残惜しそうな表情を残し歩き出した。
響希は否が応でも2年前のことを思い出してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!