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 あれは、座間市の外れにある工場跡地に不審な車両が停められている、という通報があったことが始まりだった。  現場近くにいた響希がまず向かうことになった。交通課の捜査員は、刑事課とは違い1人で動く事もけっこうある。もちろん被疑者に聴取する場合等は2人以上が基本だが、不審な車両の確認のような時はまず近くにいる者が向かい、状況によっては1人で済ませてしまうことも多い。  その時も、おそらく誰かが車検切れや何かで必要のなくなった車両を捨てていったか、あるいは盗難車を置いて逃げたか、という予想を立てていた。  しかし、事態はそれどころではなかった。  当該車両は、前日川崎市内で強盗殺人事件を起こした男3人が乗って逃げてきたものだったのだ。そして、その凶悪犯たちが、すぐそばにいた。  犯行現場を管轄する署が即座に緊急配備を敷き、検問も行われたのでその範囲内に潜伏していると思われたのだが、実はそれよりも更に早く逃げ出していたようだ。  工場跡地の近隣も同様の廃工場が複数あり、静かな場所だった。  足を踏み入れた響希は一瞬不穏な気配を感じたが、気のせいだと言い聞かせて中まで進んでいく。  停められていた車はミニバンでキーもついており、すぐにも動き出せそうな状態だ。  運転席を見て、後部のスライド・ドアも開けて中を確かめる。  その時、いきなり背後から羽交い締めにされてしまった。  「あっ、きゃぁっ!」  叫ぶ口を大きな掌が塞いだ。さらに、左右から別の男たちが彼女の両腕を掴んだ。  3人がかりで車内に押し込められた。シートが倒され、その上に寝かされてしまう。  ……!?  藻掻くものの、いきなり自分より体格の良い男達に組み伏せられてしまい、抵抗の(すべ)はない。
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