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 一馬は田上と並んで会議室の後方にいた。立ったままだ。参加はしているがあくまでもオブザーバーとしての立場なので、目立たないようにしたかった。  とはいえ、時折刑事達の視線は感じる。怪訝そうであったり明らかに不快感を表している者もいた。  捜査に進展はないようだ。あれほど死体を損壊させているにもかかわらず、犯人は忽然と消えている。それが人なのか獣なのか、あるいはもっと違うものなのか、ということもわからない。  我々が調べてきたこれまでの不審死と、全く同じだ……。  与党民事党議員である阿久谷元吉の不正について糾弾しようと調査していた、野党議員の死が最初だ。  その議員は登山が趣味だったが、ある日、丹沢山系内の山道で遺体で見つかった。かなり酷く損壊しており、当初はツキノワグマなどの野生動物に襲われたのだと思われた。  しかし、動物の歯形も確かに見られたが、不自然な傷も多かった。腕や足、そして首までもが引き抜かれたようで、日本では北海道にしか棲息しない(ヒグマ)でもない限り、そんなことは無理だ。また、血がほとんどなくなっているというのも奇妙に感じられる。  それから数ヶ月後にある大手興信所の調査員が廃材集積場で、更にその数ヶ月後には新聞社の社会部記者が森林公園の外れで、それぞれ惨殺死体となって発見された。野党議員と同じような状態だったという。  どちらの人物も、不正を疑われる阿久谷議員を調べていた形跡がある。  そして、今回を含めどの事件も大きなニュースになってもいいはずが、マスコミの取り扱いは小さい。  これは、あまりにも残酷な遺体の状況だったので社会的影響を鑑みて報道を控えめにした、ということも考えられる。しかし、与党内でも影響力を持つ阿久谷議員が圧力をかけ、騒ぎを小さく収めようと画策しているようにも考えられた。  阿久谷の不正に関しては以前から公安内でも噂されていた。不穏な新興宗教団体との癒着が特に顕著に感じられたのだ。そのような背景も踏まえ、一馬が所属する班で捜査を開始した。  捜査対象となる阿久谷議員が邪魔になる人物を何者かに殺害させている、という筋立てが考えられた。その()()()を特定するのが重要になるが、実は同様の遺体損壊事件が無関係と思われるところで起こっていた。  それが、一馬の胸に疑問と不安を呼び起こしている。  2年前の響希が巻き込まれた事件だからだ。
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