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 まさか、岸本が殺されてしまうとは……。  野中輝男は深夜の街を歩きながら、無念の思いにとらわれていた。  彼1人に任せず自分も協力していれば、もしかしたら死なせずにすんだのかもしれない。  フリーの岸本と違い、野中は雑誌社の記者だ。ジャーナリストであることに変わりはないが、自分の判断だけで動くのは難しい。  岸本が与党民事党の阿久谷元吉や、その支持者の数々、特に『今大宝房』という新興宗教団体について調べていたのは知っていたし、できることなら一緒に不正を暴きたいと考えていた。  彼は野中を頼りにしていた。しかし、所属する雑誌社がなかなかOKを出さなかった。野中は阿久谷を追求するべきだと強く主張し続け、編集部はやる気を見せていたが、やはり企業としては尻込みせざるを得なかったのだ。  だが、もう待ってはいられない。いずれ共に取材をするために、と岸本が残してくれた阿久谷の不正に対するデータがある。これを元に取材を進めよう。うちの社がダメでも、どこかに発表の場はあるはずだ。  そんな思いを胸に歩いていると、妙な雰囲気に気づいた。  あれ? ここは……。  繁華街を折れ、路地裏を通って自宅がある住宅地へ向かっているはずだった。  だが、気づいてみると、見覚えのない路上にいた。両側に林があり、道の向こうは黒ずんだ霧に包まれている。  おかしいな、いつの間に……。  辺りを見まわす野中。ついさっきまで、見慣れた路地裏だった。細く、汚れていて見通しも良いとは言えないが、歩き慣れた道だ。しかしそれを抜けたとたん、妙なところに出てしまった。  一本道を間違えたか? いや、そんなはずは……。  戸惑っていると、右手の林の中でガサガサと音が聞こえた。何かいる。
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