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「織田警部だ。やっぱりこっちにも来たんだな……」
田上が小声で呟く。
「先日の座間での事件と関係あると見ているんですね。まあ、当然と言えば当然でしょうが……」
一馬もなるべく小さな声で言った。田上は声を出さず頷いて応える。
……そして、その裏になにか怪異が潜んでいるとも考えているのか、と自分だけ胸の中で続ける一馬。不穏な思いがますます強まっていく。
捜査会議が始まった。一馬と田上は黙って様子を見る。
事件の概要、遺体の状態、発見現場の状況等が一通り説明されると、いったんできた合間を幸いとでもいうように、織田警部が立ち上がった。そして出口に向かって歩きながら、堂々と誰かを手招きしている。
な、なんだ?
さすがに一馬も田上も唖然とした。捜査会議中にあんなに大胆に退室するなど、今まで見たことがない。しかし、上層部の連中は苦笑したり渋い顔をするだけで、何も言わない。
手招きされたのは若い女性捜査員だった。え? 私ですか? とでも言うように自らを指さしている。
織田警部は眉根をよせ額にシワをつくりながら彼女を見返した。当たり前じゃないか、他に誰がいる? さっさとしなさい、とでも言っているようだ。
美樹本は、またしばらく織田警部つきだな……。
そんな声がどこかから聞こえてきた。よくあることなのだろうか?
美樹本というらしい女性捜査員は仕方なく立ち上がると、まわりの者達に申し訳なさそうに頭を下げてから再度織田を見る。その目は険しかったが、どこか呆れたような、あるいは諦めたような表情だ。慌てて彼の後を追って行った。
ショート気味の髪型がよく似合うスポーティな美人で、自然の風のような爽やかさが感じられた。
そういえば、と噂を思い出す。織田警部が新たに立ち上げる班に、若い女性捜査員の候補者がいると言われていた。彼女がそうなのだろう。
なんか、面白いコンビだな……。
一馬は少し興味を持ったが、2人が出て行き会議が再開されると、そちらに意識を戻す。
ホワイトボードに貼られた無残な惨殺死体の写真が否応なく目に入ってきて、気分はまた闇へと落とされたようになった。
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