105人が本棚に入れています
本棚に追加
/251ページ
4
「北見君、車で戻っていいよ。時間があるから、どこかで早めの昼にするといい。君、最近忙しくしてただろ? 長めの休憩でもとりなよ」
一緒に聞き込みをしていた交通捜査課の先輩が、そう言って歩き出した。
「え?」
響希は覆面パトカーのドアに丁度手をかけたところだった。戸惑いの声をあげる。
先輩が少し先にあるビルを顎で示した。
「俺はこの後、あそこの総合病院に入院中の人に会ってから電車で戻る。担当した事故の被害者なんだ。ちょっと話も聞くから」
「は、はい。わかりました」
ちょこんと頭を下げる。先輩は手を上げながら去って行った。
このところ、ひき逃げの捜査を行っていたが、被疑者特定に思った以上に時間がかかってしまい激務となる日もあった。なので気を遣ってくれたのだろう。
それに、2年前に強盗殺人犯達に襲われた後、まわりは皆必要以上に優しくしてくれ、それが今でも多少尾を引いている。
その状況には気が引けるところがあるが、実際今は疲れも感じていた。どこかで仮眠でもとりたい気分だ。先輩のお言葉に甘えることにした。
車に乗り込む際、ふと視線を感じる。
誰かに見られてる……?
先輩の姿は既に視界からは消えている。他に行き交う人達もいるが、特に響希を気にしている様子はなかった。捜査中なので制服ではなくスーツであり、それほど目立たないはずだ。
勘違いかな?
気をとり直してハンドルを握る。
しばらく車を走らせた。座間警察署勤務でしかも交通捜査課所属なので、市内のことは詳しいし、どこにどんな店があるかも知識豊富だ。いつしか昼食をとる店をどうするか迷い始めていた。
最初のコメントを投稿しよう!