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「どうしても嫌だというなら、強攻策もやむを得まい。十分注意しなければならんが……」
難しそうに言う天満。あれが彼女を守っているのなら、安易に手出しをするわけにはいかない。
何事か考えながら、天満が机上の湯飲みを手にした。お茶を飲み、ふうと一息ついてから天井を見上げる。
これは、彼が話題を変える時の癖でもあった。巳城は思考を切り替える。
「阿久谷の言っていた不穏な分子は、もう先日で終わりで良かったな?」
「そのように聞いています。ただ、数名まだ心配のある者がいるとも言っていました。いずれまた、新たな依頼も来るかと思われます」
「そやつらだけではない。もっと面倒なことに、阿久谷と我々との関係を公安が怪しみ始めている。あれは思ったより使える男ではないな。というより、我々が支援してやるようになって、慢心してしまったのかもしれない。もっと有能な者に選び変えた方がいいようだ」
天満の表情が、僅かながら苦々しそうになる。
「それにつきましては、与党民事党の若手議員に数名、めぼしい人材がいると思われます。折を見てお会いになりますか?」
今大宝房が今後日本の中枢を動かすためには、阿久谷よりもっと有能な為政者と協力体制を敷いた方がいいだろう。そろそろ、あの男は捨ててもいい頃合いだ。
「そうだな。近いうちにそういう場を設けるよう調整してくれ」
「わかりました」
深々と頭を下げる巳城。
「もしあの娘、北見響希が我々の元に来れば、おまえと婚姻を結ばせようと思っていた。そして何年後かに、おまえを政界へ送り出す。今大宝房がこの国を動かすには、それが一番いいからな。あの娘にその気がないなら、別の候補を探したいものだが……」
言い終わると天満はお茶を飲み干した。
巳城の脳裏に北見響希の姿が浮んだが、その顔は微笑んではいなかった。
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