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帰路についてすぐ、響希は座間警察署を振り返って見た。
月の光に照らされた建物を一瞬伏魔殿のように感じてしまう。そしてそれが、あの北見家の蔵に姿を変えて迫ってくるような気がして、慌てて目を逸らした。
座間署と浜波署の合同捜査本部が設置されることになった。変死体については連続殺人事件として取り扱われる。
響希が捜査に加わることはないが、市内の状況をよく知る交通捜査課員達は情報収集を支援する事になっている。そこから漏れ聞こえてくる話では、やはり犯人につながる線は未だに何も見えてこない、ということだった。
殺害状況については、社会に与える影響を鑑みると同時に捜査上の有効性――犯人しか知り得ない情報である――を考えて伏せられている。ただ、こちらもある程度は聞こえてきていた。
バラバラ死体。血がほとんど残っていない……。
自分が関係している2年前の事件、そして17年前のあの蔵での事件、それぞれの死体と状態が似ている。
まさか……。
どうしても気になってしまった。
あれが暴走しているなんてこと、ないよね?
ふと寒気が襲ってきて、自分の体を抱くようにする。歩く速度が自然と落ちた。
そんな響希に合わせたかのように、行く手を誰かが阻んだ。
「あっ!?」
息を呑む響希。思わず足が止まる。
「こんばんは。いつも突然で申し訳ない」
頭を下げる男性――巳城だ。やはり、言葉とは裏腹に謝意は感じられない。どこか不遜なところがある。
「いい加減にしてくれませんか。私はあなた達の宗教に興味はありません」
きっぱりと言った。もう、何度目のことだろう?
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