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「今大宝房」という新興宗教団体の教祖、天満行徳がこの巳城と共にやってきたのは、1ヶ月ほど前だった。
彼らは北見家に古来から伝わってきた秘術について知っていた。いや、ようやくたどり着いたと言っていたので、調べた末に響希の存在を確認したのだろう。
そして、その宿命を引き継いでいる響希を勧誘してきた。
今大宝房の重鎮として迎え入れる。ゆくゆくは教団の代表の座を譲り渡してもよい、とまで言われた。
突然のことで驚いたが、即座に断った。
自分は警察官としての職務に誇りを持っています。他のことに力を注ぐ余裕はありません。
そんな響希の返事で、その場はもの別れとなった。
しかし、その後数回、この巳城が声をかけてきていた。なかなか諦めてくれない。
「北見家に引き継がれてきた秘術を、今の世にも活かして国を変えていく。これは意義のあることだと思います。あなたにはその力があるはずです」
巳城が眼光を強めるようにして言った。
「そんな力なんてありません。私はただ北見家に生まれたというだけなんです。これからも、普通に暮らしていきたいんです」
「それができると思っておいでですか? あなたの置かれた状況は、それを許さないのでは?」
たたみかけるように言葉をぶつけてくる巳城。
「そうだとしても、あなた達に協力するつもりはありません」
響希はそう言ってまた歩き出した。彼の横を通り抜けていく。
「待ってください。天満行徳の元に来れば、あなたの宿命も全て受け入れてもらえますよ。それが、あなたにとっての普通になります」
いつになく、どこか必死さがうかがわれた。響希が足を速めても、巳城はついてくる。
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