178人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼女もそうだが、俺も警察官だ。これ以上つきまとうなら、それなりの覚悟はしてもらうぞ」
一馬が強い口調で言った。
巳城は「むっ!」と呻って睨み返す。視線がぶつかり合った。
しばらくどちらも退かないまま、時間が流れる。響希はハラハラしながら見守った。
いくら人通りが少ないと言っても、いつまでもこうしているわけにはいかない。ようやく、巳城の方が先に目を背けた。
「よく考えておいてください」
彼は響希に向かってそう言い残すと、足早に去って行った。
「大丈夫?」
一馬が響希に問いかける。柔らかく、優しい目に戻っていた。
「う、うん。ありがとう。助かった」
「送るよ。一緒に行こう」
そう言って笑う一馬に、響希は胸をときめかせる。素直に嬉しい。懐かしい想いがよみがえる。
2人並んで歩いた。こういうのも久しぶりだ。
しかし、一馬は思案気味の表情で響希を見る。そして遠慮がちに声をかけてきた。
「あのさ、ごめん。ちょっと話を聞いてしまったんだ。北見家の秘術、ってなんのこと?」
「えっ?」
ドキリとした。これまで誰にも言わず、胸に秘めていたことだ。あの、今大宝房に突き止められるまでは……。
響希が戸惑っているのを感じとったからか、一馬は意を決したように彼女をまっすぐ見つめた。
「俺、響希の力になりたい。今のヤツのこともそうだし、他にも心配事があるなら、教えてほしい。なんでも言ってくれよ」
真剣な視線を向けられ、響希の足がまた止まる。
一馬も立ち止まり、彼女を見つめた。
しばらく時も止まったようだった――。
最初のコメントを投稿しよう!