114人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
6.ときめきのあまり心臓が止まるかと思いました。
「私は女性のためにも、王族だけでも妻を沢山とれても良いと思うのですがね。だって、誰だって王妃になりたいでしょう。王妃になれなくても国王の妻として王宮で贅沢な暮らしがしたいではないですか。イザベラ様もライ国が長子相続のルールをなくしてルブリス王子が次期国王になれないかもしれないと考えたから、サイラス様に乗り換えたのですよね」
私は他国の要人から自分がどう思われているかを受け止めようと思った。
人にどう思われているか気にし過ぎてはいけないと分かっていても、私のサイラス様への気持ちを否定されたようで今にも泣きそうになってくる。
レイモンド様に涙を見られたくなくて、私は彼を追い出そうとベットに座る彼の腕を思いっきり引いた。。
「レイモンド様、人を見抜く力が上に立つものには必要だと私の愛する人が言っていました。今、私のことをそのように思われているのならば、サム国の為にも王太子の地位を弟君に譲ったらどうでしょうか? お帰りください。明日はサイラス様が国王陛下になる大事な日です」
私が声を振り絞るように言った言葉に、彼が慌てた表情になる。
「イザベラ様、失礼があったのなら申し訳ございません」
急に慌てたように謝ってくるレイモンド様を無理やり私は扉の外に追い出した。
「謝罪は受け入れます」
私は何とか彼に伝えると扉を閉めて、1人泣いた。
♢♢♢
「イザベラ、おはようございます」
サイラス様が本当に朝一番に私に挨拶しに来てくる。
「サイラス様、お誕生日おめでとうございます。サイラス様が生まれてくれた、この世界の奇跡に感謝したいです」
私は彼の顔を見るなり、心が温かくなった。
「イザベラ、何かありましたか?」
サイラス様が聞いてくる言葉に心臓が止まりそうになる。
昨日は悔しさと悲しさでぐちゃぐちゃになり一晩中泣いていた。
目がむくんでたりするのだろうか、今日は彼の大切な日だから絶対に心配をかけたくない。
ルイ国の人たちもサイラス様の手前、私に優しくしくれているが本当は私のことをどう思っているんだろう。
他国の王子から王妃になりたくて、彼に乗り換えた強かな女だと軽蔑されているのではないだろうか。
「特になりもありませんよ⋯⋯」
私は笑顔で返したつもりだが、サイラス様が返してきた微笑みはどこかぎこちなく感じた。
「サイラス国王陛下万歳!」
サイラス様に王冠が被せられる。
サイラス・ルイ国王陛下の誕生だ。
式典で、各国からの招待客がそれぞれお祝いの言葉を述べる。
世界中の国が要人を遥々ルイ国まで送っているのは、サイラス様の今後に期待してのことだろう。
国王陛下まで来ているライ国は、それ程にルイ国を重要と思っていることだ。
国の代表の同じような形式的なお祝いの言葉が続く中で、退屈そうにしているルブリス王子が見えた。
エドワード王子は気を抜かずに美しい姿勢で話を聞いている。
「サイラス国王陛下。サム国の代表としてお祝いに参りました。レイモンド・サムです。皆様、ルイ国が寒いと今凍えていませんか? そんなことはありませんよ。今、ルイ国は世界中のどのような国より熱い国です」
昨夜会ったレイモンド様の演説が始まった途端、空気が変わる。
形式的なものではなく、自分の言葉で話しているのが分かるからだろうか。
皆が彼の話に集中していて、彼の次の言葉を待っているのが分かる。
「レイモンド王太子殿下は演説の天才なのよ、イザベラには負けると思うけどね。彼って不思議な魅力があると思わない?ルイ国の淡白な男にはない、大人の色気みたいな。女だったら皆一度は惹かれてしまうのではないかしら。サム国は今列席している国では遠い方だけど、裕福で無視できない国よね」
ララアが顔を赤めながら、私に話しかけてくる。
レイモンド様は軽薄に見えたが女性には人気があるようだ。
「私はサイラス様以外の男性には魅力的には感じません」
正直にララアの問いに答えると、隠すように笑われてしまった。
「サイラス国王陛下が誕生したから? 確かに陛下は素晴らしい、きっと陛下は歴史的に残る功績を残すでしょう。ルイ国史上に残る最高の国王になることを保証します。なぜ、そのような確証があると思いますか? 陛下の婚約者であり次期王妃であるイザベラ・ライト公爵令嬢が2人といない世界一の女性だからです」
一気に私に視線が集まってくる。
私は昨晩、レイモンド様にとても失礼な言動をしたことを思い出した。
今から彼が何を言うのかと思うと怖くなってくる。
「流石、イザベラ」
隣に座っているララアが私の耳元で囁く。
「人の価値を見抜く力は君主にとって一番重要です。昨日、イザベラ様と私は数分程度話す機会がありました。それは女神との迎合とも言える貴重な時間でした。彼女は私がこの2年悩んでいた問題を、一瞬で解決してくれたのです。普通の人間では思いつかない強引とも言える手段です。しかし、私とサム国の未来を考えるとこれ以上にない唯一無二の解決策でした。サム国の未来を考えるなら王太子の座を弟に譲れと言われた時は、ときめきのあまり心臓が止まるかと思いました」
大勢の前で昨日の無礼を非難されて、私のせいでサイラス様に迷惑がかかるのかと思うと怖くなった。
最初のコメントを投稿しよう!