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15.私の知っている優しいあなたはどこ?
「私もカールもルブリス王子殿下の実績にするようにすすめたからだよ。殿下は人の手柄をすすんで横取りする方ではないよ。それよりも優太はレイラ王女をもっと大切にしてあげて。彼女は本当にあなたのことが好きだから、きっと他の女性を側室にしたら表面上は平気な顔をしていても傷つくと思うの」
「どうして? 俺は一生誰も好きにならないよ。姉ちゃんがおかしいんだよ。前世の苦しさから一体何を学んだの?人はすぐに権力に屈するって学ばなかった?昨日まで自分に好意的だった人は、すぐに敵になるって学ばなかった?俺は学んだよ。だから人に屈せられる側にはもうなりたくない。権力が欲しいんだ。側室ってマリアンヌとアツ国のお姫様のこと?マリアンヌはカール様への嫌がらせも込めて味方に取り込もうと思ってる。姉ちゃんがルイ国に行っても結局優秀なカール様がルブリスの味方をしていたからどうにもならないからね。アツ国のお姫様はこれから落としに行くところ」
優太に私の知っている優しい優太はどこにいってしまったのかと叫びたかった。
権力に固執するばかりで、人への思いやりを失ってしまっている。
でも、もし優しい彼がいなくなったのだとしたら、それは全て私のせいだ。
「ビアンカ王女は私の初めての友達なの。彼女は好きな人がいるから、優太は手を引いて欲しい。それから、マリアンヌ様はカールへの嫌がらせになるってどういうこと?」
「カール様は母親の仇とマリアンヌに恨まれて、しょっちゅう毒を盛られていたりしたらしいよ。カール様が長期に渡り具合が悪かったのが彼女のせいだと発覚しても、家庭の恥部として伯爵家では隠されているけれどね。それに毒を持った犯人が発覚した時にはカール様はライト公爵家の養子になることが決まっていたしね。マリアンヌはレイラの対抗意識を煽るのにも使えるし、うまくいけばルブリスに毒を盛ってくれるかもしれない。ビアンカ王女は姉ちゃんの友達っていうなら、利用するのを諦めるよ」
私の知っている優太はどこまで残っているのだろうか。
私への思いやりは見せてくれるものの、他者への冷酷さは私の知る優太が持っていないものだった。
それにしても伯爵家の隠された事情は務めていたメイドからでも聞き出したのだろうか。
優太はそんな危険な女性を自分の近くに置くことは怖くはないのだろうか。
「カールは私の大事な弟なの。自分に毒をずっと盛っていた人がまた姉になって、恐怖にさらされる毎日を送らせたくない」
カールはそんなに辛い目にあったのに、そんなところを見せずいつも私を支えてくれた。
毒を盛られたことを明らかにしマリアンヌ様に復讐することもできるのに、それをしない情が残ってしまっているのがカールなのだ。
「何言ってるの? 16年も姉ちゃんの弟をやっていたのは俺だよ。なんで、少し前に弟になった人間の方を優先するの?」
「優太も大切な弟だよ。私はあなたの存在があったから綾として生きてこられたの。だから、人に毒を盛ったりする女性を近くに置かないで欲しい。それにライト公爵家と関係を持ってしまうと、他の貴族たちの心は離れていくと思うわ」
私は優太に自分が彼をいかに大切に思っているか伝えたかった。
まだ沢山言いたいことがあったのに、意識が遠のいてくのを感じた。
心臓も舌も凍えるように冷たいけれど、優太は大丈夫だろうか。
♢♢♢
「サイラス様⋯⋯」
目を開けると銀髪に青い瞳が見えた。
私はベットに寝かされている。
なんとか体を起こすと、素早く彼が枕を背に2つ入れてくれた。
「残念、弟のライアン王子でした。イザベラ様、悪漢に誘拐されかけたところをエドワード王子に助けられたそうですが大丈夫でしたか?」
もしかして私は気絶してしまい、優太であるエドワード王子が私を王宮まで運んでくれたのだろうか。
「はい⋯⋯」
私はとりあえずエドワード王子の作った話を肯定することにした。
「分かりました。やはりエドワード王子の作り話でしたか。イザベラ様、表情に全部出てしまい自分が嘘をつけないことを自覚した方が良いですよ。本当は、一体何があったのですか?」
ライアン王子が私の顎を指であげて、目をじっと見つめてくる。
彼はこうやって目を見つめることで、人が嘘をついているのか判断しているのだろう。
彼は私の前世のことも知っているし、ここは本当のことを話した方が良さそうだ。
「エドワード王子が私の前世の弟だったんです」
「申し訳ございません。今のは聞かなかったことにしてください。その話はまだ兄上にはしてませんよね。私に先に話したことがバレたら、兄上の私への態度がキツくなります。兄上はイザベラ様のことに関しては、かなり嫉妬深いですから。それから、兄上はエドワード王子の嘘を見破っていて、イザベラ様が嘘を突き通せないともわかっているようでした。今、びしょ濡れで気絶したイザベラ様をエドワード王子が運んできたことで少し騒ぎになっています。要らぬ憶測を呼ぶかもしれません」
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