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17.人を見る目がない私の罪。
扉のノック音と共にメイドが恐る恐る部屋に入ってくる。
「イザベラ様、ライト公爵がお見えです。今、舞踏会の閉会の言葉をサイラス国王陛下がしているので国王陛下がいらっしゃるまでお通しできないと言ったのですが、部屋の前で待たれてしまっています」
舞踏会を切り上げてライト公爵が倒れた私のところに来たのは私を心配してのことではないだろう。
私の今日の演説の内容に文句が言いたいのだ。
「私が父にしっかりと対応していなかったことで、困らせてしまいましたね。申し訳ございませんでした。父を通して頂いて大丈夫ですよ」
「イザベラ様、申し訳ございません。お着替えをお手伝いしますね」
メイドさんの言葉に自分の身なりを見ると私は今、寝巻き姿だ。
実の父とはいえ、他国の来賓だからこのような姿でお迎えするべきではないと言うことだろう。
「いえ、その必要はございません。心の中で40秒数えたら、父を通して頂けますか?私の特技は実は早着替えなのです」
メイドさんの手を丁寧に借りていたら、ライト公爵への対応が遅れてしまうので私は自分で着替えることを申し出た。
「りょ、了解いたしました。では、一旦失礼いたします」
ここは王妃様のお部屋で、先程のメイドさんは王妃様の侍女だったかもしれない。
なんとなく彼女から高貴な感じが漂ってきた。
王妃様の侍女は皆、貴族の出身だから私が自分で着替えると言ったことに驚いたのだろう。
私が、クローゼット開けると、明らかに私のために用意しただろうドレスやワンピースがあった。
きっと、サイラス様が用意してくれていたのだろう、私は何から何まで彼に頼りっぱなしだ。
その中から楽そうな水色のワンピースに着替えると、扉のノックと共にライト公爵が入ってきた。
「お前は何をやっているのだ。お前がサイラス国王陛下の婚約者になったのは、ライ国の発展のためだというのがわからないのか。その上、エドワード王子にまで迷惑をかけて、お前と言う奴は!」
ライト公爵は顔を真っ赤にして、入ってくるなり手を振り上げた。
失神するまで体が冷えて倒れた娘にする行動とは思えない。
手を振り上げて、またしても頬に当たる寸前で止める。
「一生消えないアザができるまで殴ったらいかがですか?そうしたら、私を駒として使えなくなりそうでできないのでしょう。無駄な脅しのようなことはやめてくださいますか?それから、マリアンヌ様を養子に迎えることもやめた方が良いと思いますよ。エドワード王子は彼女を受け入れません」
カールを守りたい、何よりも優太であるエドワード王子を守りたいと思った。
優太は私のことを前世の壮絶な虐めで感覚が麻痺していると言っていた。
壮絶な経験をしてきたのは彼も同じだ。
彼もまた私と同じように感覚が麻痺している。
権力を手にするために、危険な女を側におこうとしている。
「エドワード王子殿下はマリアンヌを側室に受け入れると約束してくださった。また、お前が余計なことを言ったのか!」
「お父様、エドワード王子はライト公爵家と距離を置くことを考えています。聡明な彼がライ国のことを考えれば当然のことです。女を使って王家に取り入るのはおやめください」
「サイラス国王陛下は本当に恐ろしい方だな。お前をこんなにも変えてしまった。恋に盲目になり実家の利益さえ考えられない。彼は非常に強かな人間だ。お前のような見た目だけの女は彼にとって利用しやすいのだろう」
私はライト公爵の言葉に悲しくなった。
どんなにお金があっても、娘を見た目だけと罵り駒のように扱う方なのだ。
突然扉が開いたかと思うと、ルブリス王子が私を骨が折れそうなくらい抱きしめてきた。
「イザベラ、心配した。本当に、君に何かあったら私は生きていけない」
彼は相変わらず自由な人だ。
他国の王子が来たら、使用人たちが部屋の入室を断るのは不可能だろう。
「ルブリス王子殿下、私はこれで失礼します。娘は今、心が不安定なようで殿下に慰めて頂ければと思います」
ライト公爵がいやらしい顔をしてルブリス王子に笑いかけ、私を無視して部屋をでる。
私と彼の間に何か起これば良いとでも思っているのだろう。
「ルブリス王子殿下、離してください。これからライアン王子とエリス様の結婚式が行われるのではないですか? 参列しなくて良いのですか?」
ルブリス王子殿下は私を見つめながら悲しそうに言って来た。
「そのようなもの、イザベラに比べればどうでも良い。エドワードに何かされたのか? あいつは本当に信用できない奴だからな」
ルブリス王子殿下の言葉に、私は心底自分が人を見る目がなかったことを悟った。
絶望した殿下に勝手に自分の前世を見て、安っぽい同情をし助けようとした。
あの時、私はルブリス王子殿下がどんな方かほとんど知らなかったではないか。
彼を助けようとしたのは完全に私の自己満足だ。
一方で私は優太がどういう人間か知っている。
彼は生まれ変わっても努力が認めらる人間になりたいと思うような人なのだ。
理不尽な扱いを受けても、それを隠し1人で戦い続ける私の大切な弟だ。
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