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7.彼の側にいるために。
レイモンド様の言葉に大衆が騒然となり、私に一気に視線が集まる。
感情に流されて昨晩、他国の国賓である彼に失礼な態度をとってしまった。
後悔したところで自分のした事がとりかえしがつかないことだと分かっている。
私はサイラス様の側にいられなくなるんだろうか。
彼は優しいから私のせいで火の粉がかかっても、熱くないふりをしそうだ。
「美しい赤い髪の黄金の瞳はルイ国の次期王妃であるイザベラ・ライト公爵令嬢の本来の魅力を隠す隠れ蓑でしかありません。私は自分がこの年まで何を言われようと、将来のたった1人の伴侶を決められなかったのか理解しました。サム国はただでさえ、優秀で魅力的な女性が多い。私は目が肥えていたのかもしれません。しかし、彼女に出会い言葉を交わした瞬間、私は彼女と会うために生まれてきたのだと感じたのです」
レイモンド様の言葉にみんな聞き入り、私を食い入るように見てくる。
彼は自分がなかなか婚約しなかったのを私のせいにしている。
これは、昨日失礼な態度をとった復讐なのだろうか。
私は1万人以上いる大衆の目が自分に集中してることに耐えられず意識が遠のいていく。
遠くで私を心配するララアの声が聞こえる気がする。
「世界一女性の権利を大切にしているサム国です。世界最高の女性は我が国にいるべきだ。私は彼女をサム国の次期王妃として迎えることにしました」
今日一番のどよめきがする。
昨日の軽い感じのレイモンド様を見るに、これは大衆の気を引くためのネタのようなものなのだろうと分かる。
でも、私は自分がネタにされて注目されるのが苦手だ。
自分をネタにされることを虐められているように感じてしまうのは、私の前世の記憶のせいであろう。
注目をされてることに重荷と強いストレスを感じてしまう私に王妃など務まるのだろうか。
「しかし、私は世界最高の男を知っています。サイラス・ルイ国王陛下です。陛下は歴史に名を残す国王になるでしょう。世界最高の女性は陛下にこそ相応しいと思います。そのような最高の2人に、我が国、最高の国宝マリンサムをプレゼントしたいと思います。ルイ国はこれからますます発展していくことでしょう。我がサム国はルイ国と現在よりも強固な友好的関係を結びたいと思います。ルイ国からサム国への輸入品の関税を向こう1年撤廃したいと思います。そして、ルイ国が他国より攻められそうになった時には我が国の軍が援軍を送ることを誓います」
レイモンド様の言葉に拍手が沸き起こる。
国宝は元からプレゼントする予定で持ってきたのだろう。
1年間、関税を撤廃するのは思い切りが良すぎて驚きだが、世界一裕福と言われるサム国は余裕があるということだ。
ルイ国とサム国は軍事同盟を結ぶということだろうか。
周辺諸国でとりわけ強い武力を持つ2国が同盟を結ぶということだ。
そういえば昨夜レイモンド様はルブリス王子のことは王子と呼んで距離感を感じたが、サイラス様のことは名前で呼んだ瞬間があった。
2人はもともと仲が良いのだろう。
周りからの視線の攻撃が終わった気がしたので、私は顔をあげてサイラス様の方を見た。
一瞬目があって思わず目を逸らしてしまった。
昨晩、夜遅くにレイモンド様を部屋に入れたと知られたら彼にまで軽蔑されそうで怖かった。
「サイラス国王陛下、この度はおめでとうございます。世界中で誰よりもサイラス・ルイ国王陛下の誕生を心待ちにしていたのが実は私だったりします」
ライ国の国王陛下のお祝いの言葉がはじまった。
国王自らお祝いに駆け付けるほど、ライ国はルイ国を大事にしているということだろう。
私はライ国の方々の席に目を向けると、相変わらずルブリス王子が退屈そうにうとうとしていて笑いそうになった。
彼は私のベットを横取りしてまで寝ていたのに、まだ寝たりないのだろうか。
「皆様が聞きたいのは、私のような老いぼれの話ではないですね」
ライ国の国王陛下は何をいうつもりなのだろうか。
レイモンド様の演説に触発されたような、気を引く演出に私は変な動悸がしてくる。
「我が国を代表する、美しい才女イザベラ・ライト公爵令嬢より、サイラス国王陛下にお祝いの言葉を頂きたいと思います。ライト公爵令嬢、どうぞ壇上にお上がりください」
皆がまた私に注目してきた。
私はライ国の国王陛下とは10歳のルブリス王子との婚約の顔合わせより会っていない。
レイモンド様からの流れで私をネタに話すのがブームになってしまったのだろうか。
周りのみんなの注目が一気に私に集まる。
彼らは私のことを権力欲しさにルブリス王子からサイラス様に乗り換えた不埒な女と思っているように思えた。
きっと、私の得意の被害妄想だと自分に言い聞かせて席を立ち上がる。
「イザベラ、大丈夫?」
隣のララアが心配そうに私に声を掛けてくる。
きっと今、私は暗い顔をしているのだろう。
サイラス様の隣にいることを許してもらうためには、光の住人のフリをしなければいけない。
私はララアに微笑みかけると、壇上に上がった。
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