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二番目のエピソードは、高校時代へと時間が飛ぶ。
その頃になると、ようやく自分の気持ちが整理できて、自分の最低さや、無意味な自己嫌悪から解放されていった。
友達と遊ぶのも忙しくて、バイト先の先輩と付き合うことになって、初恋から生じる、カラフルで鮮やかな目まぐるしさに私は夢中になった。
「惚気るのもいいけど、瑞穂は次のステージにあがった方がいいと思うの」
「え?」
お昼休みで、クラスメイト達との何気ない雑談だった。
隣席のサキが興味津々と、私がどんなデートをしているのか訊きたがっていたから、私は正直に話した。そしてこの前、映画に行った後、初めてキスをしたことを話してしまった。
ちょっと勢い任せのキスだったから、唇の角度が悪くて、お互いの歯が当たってしまって痛かったと、私は多分、ものすごくニヤニヤしながら話していたと思う。
「純情ぶるのもいいけど、みんなやっていることだから」
そう言って、スカートのポケットをまさぐり始めたサキ。
私は彼女が言った「次のステージ」の意味が分からずに、ぽかんとしていると、サキが無遠慮に、私のスカートに何かをねじ込んでくる。
「ちょっと、なんなのもぅ!」
「ふふふ。なーんだ?」
サキの顔には悪意がなかった。何度も何度も思い出してみたけど、化粧で彩られている彼女の顔には、どこにも一片も、私に対する悪意なんてなかった。
「え、これって」
ポケットにねじ込れた物を摘まみ上げて、私は凍りついた。周囲にいたクラスメイト達は、サキの行動を咎めることなく、穏やかな光の中にいるのに、私だけ暗い極寒の地に放り出された温度差だった。
視界に入る、正方形のビニールに封されたピンク色の薄いゴム。知識だけはあったがその用途に、全身の毛が逆立ち、衝動的にコンドームを床へ叩きつける。
「ヤダ、汚い!」
まるで自分のポケットに、直接男根を入れられたような不快感だった。
自分の初恋が穢されたようで、悲しくて惨めで涙があふれてくる。が、それ以上にサキが、形相を般若のように歪めて睨んできた。
「へぇ、汚いんだー。へぇーそうなんだー」
その後、高校を卒業するまで、私はイジメられた。
バイト先の先輩とは自然消滅した。
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