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※ 五歳の頃の俺
白く乾いた砂場に蒼いリンドウ一輪。
俺が小学生に上がる前、よく遊んだ公園の砂場と記憶している。特段砂場遊びが好きだったわけではない。目的は別にある。
「あっ、またいる」
隣には髪がこれでもかと思うほど黒く、男の子と見間違いそうだが、女の子と分かるくらいのウルフカットの少女が立っていた。柔和な笑顔を白い砂が陽光を反射して輝かせていた。
「せっかくだから、今日も一緒に遊ぼうよ」
子供だった俺は毎回のように、偶然いる体を装って、一緒に遊ぼうと誘った。
彼女は一度も断らずに誘いに乗ってくれた。トンネル堀り、ママゴト、泥団子作り、ただベンチに座ってのお喋り。夕方になると、少女のお母さんらしき人物が、リンカと呼ぶとバイバイして、また遊ぼと約束を交わす。
日々の中で何でもない時間だったが、こんなに清涼感のある時間はこの先なかった。大切な白いパールみたいな時間だ。
そんな純白に澄んだ思い出に赤黒い血糊がべったりと付着する事件が起きた。
公園の傍には、一方通行の狭い道路が通っていた。道路を挟んで向こう側にはコンビニが一軒あった。
コンビニには駐車場があり、駐車場に停車する際にブレーキとアクセルを踏み誤って公園に突っ込む事故が発生した。
その時、丁度俺とリンカは砂場で遊んでいた。俺は無事だったが、その後覚えているのは砂場にできたタイヤ痕と、鉄や肉が焦げたような臭い、潰れたリンドウの花だけ。あと強いて言えば、砂の舞う様と、大人に引っ張られる感覚。
最初は訳分からなかったが、少女とその後から一切会えなくなったため全てを察した。
楽しみを失った俺はその後、腐ったゴボウのように無気力な人間となった。急に大切なものを盗られた衝撃は子供には耐え切れるわけがない。
特に気が塞ぐ日は、少女の顔の幻覚がチラついた。夜にベッドで寝ていると、生首となって俺の枕元に現れて遊んでほしそうな目で見詰められる。
見つめられるたびに、何もできなかった俺の小ささを痛感し、彼女の命を助けられるような大きな人間になりたいと願った。
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