何色を得るべきか。だが、現実は俺を色から遠ざける

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何色を得るべきか。だが、現実は俺を色から遠ざける

 廊下に人の気配がしないか確認した。なるべく音がしないようにスルスル引き戸を開け、体を横にして隙間から抜ける。  夜の病院の廊下で、非常口の緑のライトが唯一の光源なので近くの階段を下る。二十四時間運転しているエレベータもあるが、職員に異常を感知される可能性が高い気がする。  だが、階段で下りるにしてもきっと監視カメラか何かですぐにバレるだろう。なるべくバレないように速歩きで駆け降りなければ駄目だ。  爪先立ちでなるべく音を立てないよう、高速で白い階段を下りる。病院を抜けた後は、婆ちゃんの家に行こうと決めていた。恐らく火事に逢った話は聞いていると思うので、きっと匿ってくれるはずだ。  そこでこれから何をしようか考えよう。  俺の病室は四階なので、一階まで行く頃には思ったよりも息が切れていた。  一階に着くと、ロビーが広がって長い椅子が幾つも並んでいる。受付カウンターの中は電気が消えてポッカリと闇が溜まり、誰も立っていない。  安全を確認して出入り口の方に近づく。ここでビビッて動けないでいると、チャンスを逃す結果になる。なるべく存在感を消すイメージをしながら出入口の方へ速足で向かう。 「鬼頭君」  出入り口が目と鼻の先に迫ったところで、暗いロビーの中に穏やかだが芯のある声が響いた。誰もいないと思っていたカウンターの中に担当の看護師の男が立っていた。 「どうしたんだ、なぜ抜け出そうとするんだ」  考えが甘かった。病院を抜け出そうとする人間など今までも少なくなかったはずだ。病院側が対策を立てない方がおかしい。自身の凡夫ぶりを、骨身に染み入るように自覚させられる。 「このままでは、本当に何もできずに腐り果てそうな気がしたんです」  気持ちを口にすると、思わず目頭が熱くなり視界がぼやけ始めた。何もできない自身の情けなさから悲しくなった。それだけではなく、もっと何か体内の横隔膜の下から突き上がるような、重たい虚しさを感じる。
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