何色を得るべきか。だが、現実は俺を色から遠ざける

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「このまま何もしないでジッとしているだけで、何もできないまま死んでいきそうな気がして」  嗚咽と一緒に言葉が無意識にボトボトこぼれ落ちる。とにかく何かしたかった。全身の血液が何かしない限り止まって、そのまま命尽きてリンカの期待にも応えられず、父親との違いを示せずに終わるような気がする。 「気持ちは分かる。でも、今抜け出したところで何をするかは決まっていないのだろう。独り言で言っていたよ」  独り言など発しただろうかと一瞬戸惑ったが、きっとリンカが現れた時だろう。彼女は子供の頃に死んでいるので、おそらく俺の見た幻影だったのだ。  内心で焦る気持ちがリンカの姿になって、俺自身に語りかけたのかもしれない。きっと彼女は俺が作り出した俺自身の本心だろう。事故で失った時も、彼女を助けられなかった自責の念が彼女の生首に変わり、遊んでくれるように言ったのではと思う。遊ぶことで少しでも彼女に対する悪い気持ちを紛らわせようとしたに違いない。 「確かに、俺は今何をするかは決められてないです」  改めて口にすると、舌の上でジワッと辛い味が広がる。 「だったら、ここで時間がある中で考えた方が良いんじゃないか。抜け出して逃げ続けてもそんな余裕はないと思うよ。そんなに焦っても焦った分、破滅に近づくだけだと思う」  気づいたら俺はその場で蹲っていた。涙だけがダラダラ零れる。他人に無力な様を見られた事実や、何もできない現実など何もかもがごちゃ混ぜになって重たくのしかかって来る。  今日抜け出すと決めたはずなのに、何て意志薄弱な人間だろうか。こんな人間で何かを手に入れられるだろうか。 「大丈夫だ、鬼頭君。人間きっといつかは何色かに染まるさ」  俺の頭の中を見透かしたような発言をし、看護師の男は凡庸な慰めの言葉を俺に投げかけた。だが、そんな在り来りな色というものを、俺は手に入れられていないから悲しい。俺は笑顔のようなつまらないものしか持っていない。本当にこれから俺自身の色を手に入れられるのか。
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