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別に否定するつもりはない。父親は典型的なデブなジジイで、普段からお母さんへの攻撃も酷いものだ。もちろん作品は全く売れていない。
昔は有名な爺ちゃんの息子というだけで期待されていたみたいだが、今では誰にも相手にされていない。もはや木彫り職人としても認知されていないだろう。
「だからって俺まで殺す必要なんかないだろ」
外から悲鳴や叫ぶ声が聞こえる。近所の人たちが火事に気付いたみたいだ。もうガレージの中は原型を留めていない。
「お前も奴と同じ価値観で生きているから、将来はああいう風になるんだよ。だから、その前にこうやって潰しておくんだよ。でも、お前は父親の醜を認めて、作品も家も燃やされようがどうでも良く、後腐れなく逃げられるって言うなら、逃げてみなさいよ。その証明をするために母親の私を置いて逃げられるだけの気持ちを見せてみろって言うんだ」
もう理屈も何もかも滅茶苦茶だ。だが、お母さんの命を賭けてでも家族を葬り去ろうという鋭利な気持ちは不覚にも俺の心中に刺さった。
お母さんは自身の人生を賭けて、歩んで来た経路を全て灰燼に帰そうとしている。その象徴がお父さんの何の工夫もない、ありきたりな木彫り人形と、家族なのかもしれない。
「俺は何が何でも逃げるけどね。死ぬなら勝手に死になよ」
思い切り踵を振り下ろした。お母さんの泥人形みたいな顔は真ん中がえぐれて、鮮血が人生の最後に相応しい献花の花弁みたいに四方八方に噴射した。
心が痛まないと言えば嘘になる。だが、俺には生きないといけない理由もある。俺は父親と違って何者かにならないといけない。
右足が解放されたタイミングで、炎がお母さんの体を侵食し始めた。
真っ赤なベロみたいな炎はお母さんの着ていたスウェットを燃やして、お母さんの背中や腹が露わになった。皮膚に彫刻刀で彫られた跡が目立つ。
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