20.私も恋に盲目な女のようです。(フィリップ視点)

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20.私も恋に盲目な女のようです。(フィリップ視点)

世界一裕福な国に生まれ、国民から慕われていていて誰からも羨まれるのが僕、フィリップ・サムだった。 実際はずっと尽くしてきた兄からは感謝の言葉一つかけられず失望し、両親の不仲さに呆れ、冷え切った王宮から世界一寒い国に逃げてきた残念な男だ。 初恋の女性から違う女と結ばれることを望まれ、流石にショックを受けて他の男のものだと分かりつつも気持ちを伝えてしまった。 「ララア王女、今日は僕に付き合ってくれてありがとうございました」 ララア・ルイ、彼女を誘って、僕はルブリス様の演劇を観てきた。 おそらくイザベラ様に座っていて欲しい舞台の目の前の席に、僕とララア王女が座ってるのを見た時のショックを受けたルブリス様の顔は忘れられない。 彼は本当に元王族だろうか、顔に感情が出過ぎていたし、その後の演技にも影響が出ていた。 彼は美形な上に元王子という肩書きがあるからか、人気は凄まじい。 彼が書いたという脚本は、明らかに赤髪のイザベラ様をモデルにした女に翻弄され苦悩する男の話。 これ程まで大衆に自分の感情を曝け出すのを、恥ずかしげもなくできるところは本当にすごいと思う。 僕が感情を曝け出すのは、前にも後にもイザベラ様に愛の告白をしたあの夜だけだろう。 「イザベラから私を誘うように言われましたか、それにしてもルブリス様は王子より俳優の方が適正がありそうですね」 ルイ王家御用達のレストランの個室で食事をしながら、ララア王女が口を開いた。 彼女は僕と話す時、瞳孔が開いている。 明らかに僕への強い好意を感じる。 ララア王女は、彼女の姉のレイラ王女のような強かな立ち回りのうまさがない。 本当は社交が苦手なのに、なんとか社交をやっている印象さえある。 器用な女性は便利だが、同時にリスクもあるので彼女くらいがちょうど良い。 彼女をサム王家に入れたとしても、僕が上手に管理できそうだ。 「生まれる場所を間違ってくる方というのは、いつだって存在するものです」 ルブリス様にしろ兄上にしろ、自分の欲求を国より優先させてしまうような人間はそもそも王族に向いていない。 「もしかして、自分のお兄様のことをおっしゃってますか? レイモンド様もイザベラに惑わされた男の1人ですね。でも、そのお陰でフィリップ王太子殿下があるべきポジションにつけて良かったです」 僕以上に、ライ国のエドワード王太子殿下は幼い頃から優秀で有名だった。 彼が長子であるルブリス様を退けて王太子になった時点で、サム国も兄上ではなく僕を立太子させるべきだったという声は強くなっていた。 いくらそのような声が国内で強くなっても、父上はサム国700年の長子相続の歴史を変えてまで僕を王太子にしようとはしなかった。 兄上の婚約者指名で貴族令嬢に兄上が手を出しまくっていることが問題に上がり、兄上を廃太子にするまでその素行に対しても父上は注意することはなかった。 そもそも父上は馬車の事故がなければ国王にならなかった人間だったので、自分はいつも無理やり国政をやらされている意識が強いしょうもない君主だったのだ。 父上ではなく元婚約者である父上の兄に惚れていたことを、父上に対して母上は隠そうとしなかった。 父上と母上は喧嘩になると、母上は僕を産んだことで王妃としての務めは果たしたと言い張った。 「兄上がイザベラ様に惑わされていましたか?」 兄上は女性を人間だと思っていない。 そもそも女性の胸と尻しか見ていない。 高位貴族を遊び相手にせず、高級娼婦を相手にしていれば大事にはならなかった。 しかし、彼は高位貴族の貞操を踏み躙ることに意味を感じているように僕には感じた。 なぜ、あのような男のために尽くしてきたのか。 「お前のような弟はいらなかった」と捨て台詞を言っていたが、それはこっちの台詞だ。 「明らかに惑わされているでしょう。失礼ですが、惑わされていることにも気がついていないとしたら愚かですわ。サム国には少しも得もない同盟に参加までしています。王族である以上、国の利益を1番に優先すべきですわ」 ララア王女はしっかりとした王族の考え方を持っている。 やはり、彼女は僕の婚約者としては理想的相手と言える。 「ララア王女、もし僕と結婚してサム国の王妃になったら、あなたはサム国とルイ国のどちらの利益を優先しますか?」 「サイラスお兄様は私とフィリップ王太子殿下の婚約を期待しているようでしたが、殿下はその気があるのですか? 私があなたに恋をしていることにも気がついていますよね? ルイ国出身の人間がルイ国以外を最優先するのは無理な話です。私も例外ではありません。この国は自然の脅威に晒されているせいか、国民間の仲間意識が強いです。王族は国民を、国民は王族を身内のように思っています。でも、私はあなたのことを優先します。イザベラがお兄様の戴冠式の挨拶で、自分は恋に盲目な女だから出身国のことは忘れたと言ったんです。私も恋に盲目な女のようです。フィリップ王子殿下と結ばれる将来があると思うと、ルイ国のことを忘れてしまうかもしれません」
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