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食(前半)
そうして雰囲気を楽しみながら待つこと約十分。待望のロースカツ定食の到着だ。
まずはお盆の上に置かれた内容の確認。
少し大きめの茶碗に盛られたごはん。味噌汁。大皿には堂々としたロースカツ。
ロースカツは普通のものに比べるといささか大振りな感じだな。
山盛りの千キャベツとおまけ程度に添えられたポテトサラダ。パセリは……無いのか。
私は結構パセリが好きなのだが、まあアレを食べる人も少なかろう。残されて廃棄になるくらいなら最初から添えないというのも一つの方針だ。
辛子も皿の端に盛られているが、私は辛子が苦手なので使わない派だ。だが、こういう定番をしっかり押さえて盛ってくれているのは好感が持てる。
小皿にはたくあんが二切れ。それもいかにも既製品ですよと言わんばかりに真っ黄色のたくあんだ。これも好き嫌いが分かれるが、私はこういう「いかにも」な感じのものが嫌いではない。
ひと通り見た後に改めてトンカツ本体を見る。
ひい、ふう、みい……七切れか。偶然かもしれないが七は吉数。そんな風に切られたトンカツがありがたく見える。
最近は真ん中あたりの一切れを立てて肉そのものを見せるように盛り付けをする店もあるが、アレは私としては不快である。
なんせ、トンカツそのものの完璧な形を「どうです?いい感じに揚がっているでしょう?」と言わんばかりに立てているのだ。店主の自己満足としか思えない。
そしてそういう店に限って真ん中にほんのりピンク色が残るようなおしゃれな揚げ方をしている。
違う。トンカツなんて言うものはそんなおしゃれなものじゃなくていいんだ。
配膳されたときに切られる前の姿そのままに横たわっている姿が美しいのだ。あの肉を立てるという盛り付けはトンカツに対する冒涜と言っても過言ではない。
おっと、どうでもいいことだった。今は目の前のロースカツ定食に集中しよう。
まずは味噌汁。
椀を持ち、沈殿していた味噌が行き渡るように箸で軽くひと混ぜ。具は豆腐とワカメと、当たり障りがない選択だ。
そのまま椀の中に箸を留め、具を抑えながらひと啜り。
うむ、いい。猫舌の私には少々熱いが、やはり味噌汁は熱い方がいい。
味噌汁を啜ったら具をひとつまみ。そこまでが汁に対する一動作だと私は思っている。
次に箸が向かうのは千キャベツ。
本当ならここでいきなりカツに掴みかかりたいところだが、そこはグッと我慢である。少し多めに千キャベツをつまみ、口に押し込むように入れる。
しっかりと噛み、口中をキャベツでブラッシングしていくような感覚だ。
歯ごたえのしっかりしたいいキャベツだ。
ここで一度箸を置き、ソースの瓶を取る。
カツの左の端から時計回りにソースをグルリとかける。カツの一切れ一切れに二本のソースの筋が描かれるようにかけるのがポイントだ。
このソースのかけ方のできの良し悪しで私の気分は浮き沈みする。
今日のかけ方は中々よくできたほうだ。
カツを食べるときは右端の小さいものから順番に食べていく。
ひと切れ目は小さいので一口で。そこからは概ね二口で食べていくが、食べる順番としてはカツを口に入れたら飯を押し込み、しっかりと咀嚼して飲み込む。
その後は千キャベツで口内をブラッシングし、最後に味噌汁で口中を潤し、口内と腹を落ち着かせる。
三切れ目までそうして食べたところでまずは一段落。四切れ目で初めてその断面をじっくりと眺める。
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