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「作った菓子を見せてみろ――ですか?」
スグリは目の前のドラゴン――キフルの話を聞いて、首を傾げた。
「ああ。……一応、あれは我の縄張りの花ものだからな。どのようなものになるか、見届ける必要があるのだ」
キフルは重々しく頷き、言葉を続ける。
「そう言ったら、魔女は“花の蜜の雲”を作ってやると答えたのだ。三日後に魔女の店である“ぽむぐらにっと”を訪れよと、無理やり約束させられたから来たまでだ」
「そうだったんですね。ええと、すみません、伯母……ではなく、店主のザクロは、ただいま不在で……」
「何だと?」
眉間に皺を寄せるキフルの鱗が波打ち、しゃらりと音を立てた。
驚きと落胆、そしてわずかな怒りの滲む目に、スグリはひっと息を呑んだ。腕の中のミントを抱きしめれば、押さえていた口元を動かした彼が「丸焦げ~」と不吉な予言をする。
「いっ……急いでおばさんに聞いてきます! 少々お待ちください! あ、ミントはここでキフルさんの相手をしていてね、喧嘩しちゃ駄目よ!」
ぽいっとミントを地面に降ろして、スグリは店内に飛び込んで黒電話を取る。ザクロへの直通番号を押すと、コール五回目で出た。
『もしもしスグリ? そろそろ電話来ると思ってたわ』
「おばさん! 花の蜜の雲って何!? もうこっちに送ってるの?」
『だからザクロさんって呼びなさいって何度言えば』
「ごめんなさい! それより、キフルさんが来たのよ。約束のお菓子を出さないと……」
丸焦げにされてしまう!
スグリの切実な訴えに、ザクロはからからと笑っただけだった。
『安心なさいよ、保管庫に材料は送ってあるから』
「そっか……」
ほーっと胸を撫で下ろしかけて、はたと気づく。
「え……材料?」
『そうよ。こっちでも作れるけど、これは本当の出来立てじゃないと美味しくないから、あんたが作ってあげて』
「ええっ!?」
『大丈夫よー、簡単にできるから。作り方は……ああ、その前にまだ機械あったかしら……あら? まだ動くかしら、あれ……』
「おばさん!?」
『ま、たぶん物置にあるから。で、たぶんミントが作り方を何となく知ってるから』
「ちょっとそんな曖昧すぎる!」
『じゃ、頑張ってね』
おばさ、と言いかけた言葉は、ツーっと無情に流れる終話の音に消される。
一方的に切れた電話を見つめて、これで掛け直しても同じ回答しか返ってこないことは、伯母と近い付き合いのあるスグリは解かっていた。
「どうしよう……」
いっそ、ザクロのパートナーである倫悟郎さんに連絡して、作ってもらうようにザクロを説得してもらうか……いや、それだと時間がかかりすぎるし、告げ口したと拗ねられるのも困る。
困り果てながらも、とりあえず保管庫の中を確認しようとスグリはキッチンに向かう。
木でできた保管庫の扉を開けば――
魔法陣の中心にあったのは、半透明の白い飴だった。
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