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赤いゼリーがスプーンの上で揺れる。薄く紅が引かれたような唇が、ゼリーを食べるたびに美味しそうに緩んだ。
――よかった。気に入ってもらえたようだ。
スグリはテーブルでゼリーを食べる青年に時折目をやり、頬を緩ませた。ザクロが作るお菓子をお客さんが美味しそうに食べる姿を見ると、やはり嬉しくなる。
最後の一口を食べ終えた青年は、添えられた紅茶を口にする。飲み干して空になったカップを見て、スグリはポットをもって青年に近づいた。
「紅茶のお代わりはいかがですか?」
「そうだね。もしよかったら、君の血を飲みたいんだけど、いいかな?」
「へ?」
お茶のお代わりしてもいいかな、と言うような気安さの青年の言葉に、スグリは一瞬戸惑った。
聞き間違いだろうかと目を瞬かせていれば、青年はこちらを見上げて、にこりと笑んだ。
「ねえ、いいでしょう? 赤橙ざくろの大事な大事な……可愛い姪っ子の黒野すぐりちゃん?」
言うなり、青年はスグリの腕を掴んでくる。
青年の長い睫毛に縁どられた目が、褐色の瞳が――ブラッディ・ゼリーのような鮮やかな赤色へと変わっていた。
「っ…!」
スグリは咄嗟に腕を引いたが、軽く掴まれているはずなのに万力で固定されたかのようにその場から動かせない。
腕に変に力を入れたせいで、持っていたポットを取り落としてしまう。足元に落ちかけたポットを青年がもう片方の手をさっと伸ばして、寸前で拾いあげた。
「おっと。危なかったね」
青年は何事も無かったように、ポットを丁寧にテーブルの上に置く。その間、スグリは腕を掴む青年の手を引きはがそうと試みていたが、爪先まで整えられた細く綺麗な指は、びくともしなかった。
背中にぞくりと寒気が走る。
度々「お前は鈍い」とミントから貶されるスグリであるが、さすがにこの状況がやばいということはわかった。
美麗な容姿、人間離れした怪力。
そして、血のような赤い目。
目の前にいる青年は吸血鬼だ。
そして、スグリの血を欲しがっている――。
スグリは緊張で乾いた喉から、何とか声を出した。
「あ、あのっ!……ひ、人の血を、飲むときは、その……相手の承諾が無ければ、駄目だって、ちゃんと、法律で……!」
「うん、そうだね。だから、君に聞いているんだよ。血を飲んでもいいかな、って」
「っ……」
青年が腕を軽く引き寄せた。スグリの身体は簡単に引っ張られて、青年の方へと一歩近づくことになる。
距離が縮まれば、間近で青年の顔を見下ろすことになった。
絶世の美形が「駄目かな…?」と懇願するように見上げてくる。赤い目に顔を覗き込まれて、スグリはこんな状況なのに頬に熱が上るのを感じた。同時に、頭に靄もやがかかるような、貧血のように血の気が引くような感覚も覚える。
――駄目だ。引き込まれる。
スグリが咄嗟に目を閉じようとすれば、青年の冷たい指先がスグリの頬を優しく撫でて、顎を押さえてきた。
「駄目だよ。目を開けて、僕を見て」
「い、やだっ……!」
青年の命令が頭の中でわんわんと鳴り響く。
思わず言うことを聞いてしまいたくなる、魅力的な声だ。
スグリは震える指先を強く握りしめ、命令に逆らってぐっと目を閉じた。
いやだ――嫌だ!!
そう強く思ったとき、ちりっ、と胸の奥がひりつくような感覚がした。
痛い……いや、熱いのだ。熱が溢れて、胸の奥底から噴き出す。
すると――
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