第七話 ブラッディ・ゼリーは誰の味?

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 翌日の放課後、スグリは自転車を力強く踏み、急いで家に帰っていた。  明るいうちにできるだけ早く家に戻れと、ミントから言われているのだ。  昨日の夜、あの吸血鬼の青年を追い払った後、ミントは鼻先に皺を寄せて言った。 『スグリ。お前、しばらく学校休めねぇか?あの吸血野郎をどうにかするまで、この敷地から外に出ない方がいい』 「それは無理よ。明日は小テストもあるし、そもそもそんなに長く学校休めないし……」  スグリが困って眉を八の字にすれば、ミントも『そうだよなぁ』と鼻先の皺を深くする。うーん、としばらく考え込んでいたミントは、やがて嫌そうにくしゃりと目元を細めた。 『やっぱあれがいいよなぁ……うーん……』 「ミント?」 『あーもー……仕方ねぇ。おいスグリ。あれ持ってこい。あの大食い甘党大蜥蜴からもらったやつ』 「甘党って……もしかしてキフルさんのこと?」  またそんな失礼な呼び方をして、と呆れるスグリに「いいから持ってこい」とミントはなんだか怒ったように言った。  以前、巨大な赤いドラゴン――キフルがポムグラニットを訪れたとき、スグリは彼から一枚の鱗をもらった。  長さが四センチほどの乳白色の薄い鱗は、光を受けると螺鈿やオパールのように七色に輝く。憧れの幻獣であるドラゴンからもらった鱗を、スグリは自室の宝物入れに大事にしまっていた。時折光にかざしては、うっとりと眺めていたのだが……。  ドラゴンの鱗をどうするのだろう。スグリは首をひねりつつ、ミントに言われた通り、鱗を持って来て彼の前に置いた。  ミントは緑色の目を眇めて、前足を鱗にかざす。  ミントの目が金色を帯びた燐光をぽぅっと放ち、窓も開いていないのに風が起こった。  魔法だ。金色と緑色のきらきらとした砂粒を帯びた風。音を立てて鱗の周りを取り囲み、巻き付いていく。  風が止んでミントの目が元の色に戻った頃、鱗には金色の細い紐が巻き付き、緑色の小さな石が付いていた。金色の細い紐は長く、首に掛けられるほどの長さの輪になっている。  ペンダント状になったドラゴンの鱗を、スグリは感心したように見つめた。だが、ドラゴンの鱗に、勝手に魔法をかけて大丈夫なのだろうか。 「ミント、これって大丈夫なの?キフルさんに怒られない?」 『あいつが怒ろうが俺には関係ねぇ……が、別に鱗には何もしてねぇよ。そっちの方が身に着けやすいだろ』 「それは、そうだけど……でも、学校はアクセサリー禁止で」 『お守りだ。忘れずに身に着けとけよ。でないと、どうなっても知らねぇぞ』  鱗のペンダントをミントが鼻先で押しやる。  彼のいつになく真剣な様子に押され、スグリはペンダントを受け取った。  ――そんなわけで、スグリの胸元、制服の下に隠すようにして、鱗のペンダントは下がっている。  ひんやりとしたドラゴンの鱗は、身に着ければいつの間にか皮膚の一部になったかのように違和感なく収まったものだ。  お守りがあるから絶対に大丈夫……と楽観はしていないが、心強く感じるのは、ミントが珍しく魔法を使ってまで作ってくれたからだろう。  ともかく、早く帰るに越したことはない。  本当は、友達に事情を話して一緒に帰ってもらおうかとも思ったが、相手は吸血鬼だ。もしも友達にまで危害を加えたらと考えると、一人で帰宅した方が  幸い、今日は金曜日で、明日と明後日は学校も休みだ。その間は、ザクロの結界が張られた家で、ミントと大人しく過ごそう。  ザクロには昨晩のうちに連絡しているし、すぐに対策すると言ってくれた。今日をやり過ごせば、きっと何とかなる。  家までもう少し、とペダルを踏む足に力を込めたときだった。
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