第一話 魔法菓子店ポムグラニット

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    *****  真っ赤な柘榴のシロップと野苺を乗せたハート形のレアチーズケーキを、小さなお客様は大層気に入ったようだ。フォークを上品に使いながら、ぱくぱくと美味しそうに食べていた。  運転手を待たせているの、と大人びた口調で話す彼女は、家族と運転手へのお土産用に、一番売れ筋の四葉のフォーチュンクッキーを買っていったものだ。  赤いランドセルを揺らし、軽やかな足取りで帰っていく彼女を見送っていれば、いつの間にか隣にいた黒猫が、長く細い髭を揺らして笑う。 『まだ十歳にも達してないくせに、ずいぶん大人びた子供ガキだったな』  頭の中に響く、大人の男性の低い声。粗野な口調で笑うのは、使い魔のミントだ。 「ミント、『ガキ』なんて言葉、お客様に失礼よ」 『ガキはガキだろ。いやー、魔女になりたいだなんて発想が可愛いねぇ。子供らしくていいってもんじゃねえか。スグリと同レベルだ』 「なっ……私はもう十五よ!」  スグリこと黒野すぐりは、むっと唇を尖らせて抗議する。  しかしミントはどこ吹く風で、澄まし顔で店の扉の方へと身を翻した。 『さぁて、暇な店番の続きでもしますかね』 「暇って言わないの! そりゃあ、確かにお客様は少ないけど……」  ミントの後に続こうとしたスグリだったが、広い庭の向こうの林の入口で、小さな女の子がこちらを振り返ったのに気付いた。  一度お辞儀してから元気よく手を振る彼女に、スグリも大きく手を振り返す。  魔女に憧れる女の子に、スグリはいたく共感していた。だってスグリもまた、空を飛んでみたいと思っている女の子だったから。 「空が飛べる魔法菓子かあ……」  スグリの伯母である赤橙ざくろに作ってくれるよう、今度頼んでみようか。  きっと断られるだろうけど、夢を持つのは悪いことじゃない。  赤煉瓦の道を駆ける少女が、ふわりと跳ねる後ろ姿を見送った後、スグリも真似してジャンプしてみた。  赤いエプロンと水玉模様の三角巾が、ふわりと軽やかに浮き上がった。
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