第七話 ブラッディ・ゼリーは誰の味?

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「ナツメ君……?」  どうしてナツメがここにいるのか。  呆気にとられるスグリの前に、ナツメは落下するような速度で降りてくる。  風で乱れた栗色の髪の下の顔には、いつもの意地悪な笑みは無い。ナツメは青い目でスグリをまっすぐに見つめて、手を差し出してきた。 「スグリ! 乗れ!」  スグリは躊躇うことなく、ナツメの手を握る。強い力で引っ張られ、ナツメの後ろに座った途端、箒がぐんっと上向いた。  スグリは咄嗟に、ナツメの腹に腕を回して落ちないようにする。ナツメもまた「しっかり掴まってろ」と告げ、あっという間に十メートル以上の高さまで上昇した。  はるか下の道路には、大きな氷の塊と、その前に佇む金茶色の髪の青年、そして端に捨てられた自転車がある。  久しぶりに味わう浮遊感に、スグリは眩暈を覚えつつも、自分の自転車を指さした。 「自転車が……」 「馬鹿! そんなこと言ってる場合か!」  ナツメはスグリを叱り、前傾姿勢になった。スグリが慌ててナツメにしがみつき直すのと同時に、箒は急発進し、耳元で風を切る音がする。  箒に乗って空を飛ぶなんて、何年ぶりだろうか。足の下に地面が無く、魔力に包まれて浮いている感覚が慣れない。  くらくらとしながら、スグリはナツメに尋ねる。 「なっ、ナツメ君、どこに……」 「お前の家だ。あそこならザクロさんの結界があるし、ミントさんも――っ!?」  言いかけたナツメの言葉が途切れたかと思えば、次の瞬間、ナツメとスグリは黒い塊に飲み込まれていた。  それは蝙蝠の集団だった。  どこから現れたのか、キィーと高音の鳴き声と羽ばたきの音が周囲を包む。  蝙蝠は顔の周りを飛び、髪の毛や制服をつつき、箒の穂先を掴んで引っ張り回した。明らかに普通の蝙蝠ではなく、スグリ達を狙って攻撃している。  箒のコントロールも視界も奪われ、バランスが崩れる。落ちそうになって、スグリは必死にナツメにしがみついた。 「このっ!」  ナツメは蝙蝠の集団から逃れるため、箒の柄を強く握って向きを変え、蝙蝠が比較的少ない場所を通り抜ける。  ようやく抜け出た時、そこには金髪の青年が宙に浮かんで立っていた。  赤い唇が笑みの形を作っている。――待ち伏せされていたのだ。  気づいたときには遅く、青年が長い腕を振るう。長い爪の生えた手が、ナツメの頭を直撃した。赤い血の玉が宙を舞う。 「ぐっ……!」 「ナツメ君!」  ナツメの身体が揺らぎ、箒から手が離れた。  完全にバランスを崩して、スグリとナツメは地面へと向かって落ちる。  ナツメは気絶しているのか、何の反応も無かった。スグリはナツメの身体が離れぬようにと掴んだが、魔力の無い自分には、これ以上何もできない。  地面が、近づいてくる。  どうしよう、このままじゃ――。
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