14人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
その様子を眺めていたジーンが、くすくすと笑う。
「なるほどねぇ……それじゃあ、あの炎はドラゴンの加護ってわけか。それにしても、猫妖精と千年竜に愛されるなんて、やっぱり君は興味深いよ」
『おいこら吸血野郎。これ以上スグリに手ぇ出すようなら、そのままどっかの火口に投げ入れるぞ。その蜥蜴野郎がな』
『勝手に貴様が決めるな。そんな手間の掛かることをせずとも、今すぐこの場で骨の髄まで焼き尽くした方が早かろうよ』
「おおっと、怖い怖い」
ジーンは肩を竦めてみせたが、その顔には恐れる様子はない。むしろ楽しそうに、赤い唇を歪めた。
「それじゃあ、僕はさっさと退散することにしよう」
その台詞の直後、キフルの前脚に拘束されていたジーンの身体が黒い霧になって、さらさらと消え失せる。かと思えば、スグリの目の前で金茶色の髪が揺れる。
スグリの前に、ジーンが立っていた。
咄嗟のことに動けずにいるスグリは手首を掴まれる。掌に冷たいものが触れ、ぴりっとした痛みが走る。
「っ……」
スグリの掌に、ジーンが唇を押し付けていた。
ぬるりとした感触に、背筋が粟立つ。さっき道路に手を付いたときにできた傷を、舐められたのだ。
硬直するスグリを、ナツメが慌てて引き戻して、ジーンの手を払う。ジーンはあっさりと手を離し、赤い舌を覗かせながら笑った。
「じゃあね、スグリちゃん」
『貴様、逃がすか!』
キフルが前脚を振り下ろすが、ジーンは再び黒い霧となって消え失せ――再び現れることは無かった。
***
『ったく、最後まで油断ならねぇ奴だぜ。結局目的は果たしていきやがった、あの野郎……』
店の中に移動し、ミントはぶつぶつと愚痴を言いながら、スグリの傷を診る。
ジーンに舐められた傷は、特別に異常は無かったようだ。ミントが軽く鼻先を押し当てると、ふわりと温かな風が掌を撫でた。
『……よし、傷の浄化もしたから大丈夫だろ。次はナツメ、お前だ』
「あ、いえ、僕は……」
『いいから早く来い』
たしたしと黒いしっぽでベンチの板を叩くミントに促され、ナツメは大人しく隣に座って傷を見せる。
ナツメの頭の周りを風で覆い、怪我の状態を見るミントの様子を、キフルが横目で見やった。今は小型化して、大型犬くらいの大きさになりテーブル席に着いている。
『……口惜しいが、我は治癒の魔法は得意でない。すまぬな、娘』
「いいえ、そんな! ……助けに来てくれて、本当に助かりました。ありがとうございます」
『気にするな。困ったときは我を呼べと言っただろう』
「でも……」
『他に契約主もおらぬ隠居の身だ。たまの遠出があった方が、この永き生に張り合いも出るというものだ』
そわそわと翼を動かしながら、キフルはちらちらと黄金色の目でスグリを見る。
『……白い花の種を、忘れてきた。また、持ってくる』
かまわぬか、と遠慮がちに伺いを立てられて、スグリは一も二もなく頷いた。
「もちろんです! お待ちしています」
『……うむ』
「ああ、そうだ、花壇の用意をしとかなきゃ! 種はいつ頃撒いたらいいですか?」
和気藹々と花の話をするスグリとキフル。
ミントの治療を受けるナツメは、呆気に取られて眺める。そんなナツメにミントは苦笑した。
最初のコメントを投稿しよう!