第七話 ブラッディ・ゼリーは誰の味?

10/12

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 その様子を眺めていたジーンが、くすくすと笑う。 「なるほどねぇ……それじゃあ、あの炎はドラゴンの加護ってわけか。それにしても、猫妖精と千年竜に愛されるなんて、やっぱり君は興味深いよ」 『おいこら吸血野郎。これ以上スグリに手ぇ出すようなら、そのままどっかの火口に投げ入れるぞ。その蜥蜴野郎がな』 『勝手に貴様が決めるな。そんな手間の掛かることをせずとも、今すぐこの場で骨の髄まで焼き尽くした方が早かろうよ』 「おおっと、怖い怖い」  ジーンは肩を竦めてみせたが、その顔には恐れる様子はない。むしろ楽しそうに、赤い唇を歪めた。 「それじゃあ、僕はさっさと退散することにしよう」  その台詞の直後、キフルの前脚に拘束されていたジーンの身体が黒い霧になって、さらさらと消え失せる。かと思えば、スグリの目の前で金茶色の髪が揺れる。  スグリの前に、ジーンが立っていた。  咄嗟のことに動けずにいるスグリは手首を掴まれる。掌に冷たいものが触れ、ぴりっとした痛みが走る。 「っ……」  スグリの掌に、ジーンが唇を押し付けていた。  ぬるりとした感触に、背筋が粟立つ。さっき道路に手を付いたときにできた傷を、舐められたのだ。  硬直するスグリを、ナツメが慌てて引き戻して、ジーンの手を払う。ジーンはあっさりと手を離し、赤い舌を覗かせながら笑った。 「じゃあね、スグリちゃん」 『貴様、逃がすか!』  キフルが前脚を振り下ろすが、ジーンは再び黒い霧となって消え失せ――再び現れることは無かった。 *** 『ったく、最後まで油断ならねぇ奴だぜ。結局目的は果たしていきやがった、あの野郎……』  店の中に移動し、ミントはぶつぶつと愚痴を言いながら、スグリの傷を診る。  ジーンに舐められた傷は、特別に異常は無かったようだ。ミントが軽く鼻先を押し当てると、ふわりと温かな風が掌を撫でた。 『……よし、傷の浄化もしたから大丈夫だろ。次はナツメ、お前だ』 「あ、いえ、僕は……」 『いいから早く来い』  たしたしと黒いしっぽでベンチの板を叩くミントに促され、ナツメは大人しく隣に座って傷を見せる。  ナツメの頭の周りを風で覆い、怪我の状態を見るミントの様子を、キフルが横目で見やった。今は小型化して、大型犬くらいの大きさになりテーブル席に着いている。 『……口惜しいが、我は治癒の魔法は得意でない。すまぬな、娘』 「いいえ、そんな! ……助けに来てくれて、本当に助かりました。ありがとうございます」 『気にするな。困ったときは我を呼べと言っただろう』 「でも……」 『他に契約主もおらぬ隠居の身だ。たまの遠出があった方が、この永き生に張り合いも出るというものだ』  そわそわと翼を動かしながら、キフルはちらちらと黄金色の目でスグリを見る。 『……白い花の種を、忘れてきた。また、持ってくる』  かまわぬか、と遠慮がちに伺いを立てられて、スグリは一も二もなく頷いた。 「もちろんです! お待ちしています」 『……うむ』 「ああ、そうだ、花壇の用意をしとかなきゃ! 種はいつ頃撒いたらいいですか?」  和気藹々と花の話をするスグリとキフル。  ミントの治療を受けるナツメは、呆気に取られて眺める。そんなナツメにミントは苦笑した。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加