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ミソカの笑いが収まり、ノゾミも慣れてきたのか隠れることをしなくなった頃。
『――そういや、今回の『紅葉流し』はお前らがするのか?』
店内のベンチに並んで座り、お気に入りのカスタード饅頭を頬張る狐の兄弟に、ミントがそんなことを尋ねた。
「はい。そろそろ引き継ぎをと、父が」
『とか何とか言って、どうせこの間のいたずらの罰とかだろ。薄野の奥方が言いそうなことだぜ』
「あはは、さすが黒の御方ですね。何でもお見通しだ」
『その呼び方やめろ。つーかお前、分かってて言ってんな?』
「いえいえそんな。黒の御方様のご高名は両親から聞いており、礼儀を尽くしているだけでして」
『おうおう、いい性格してるなぁお前。薄野の旦那より性質たち悪いぜ』
二人(二匹と言うべきか?)の言い合いを聞きながら、緑茶を出していたスグリは首を傾げる。
「紅葉流しって?」
『そっか、お前は見たことなかったな。普段はこいつら、薄野の一族だけでやる行事だ。前回、ちょっと問題があってここに来たんだよ』
「前回……四年前は嵐のせいで、『紅葉流し』の前に紅葉が散りましたからね。今年の紅葉は気温が高いせいか、いつもより遅いので」
ミントに代わり、ミソカが説明する。
「僕らが棲む集落の近くに、紅葉がたくさん生えている場所があるんです。紅葉流しは、紅葉が真っ赤に染まる時期に行うものですが、時折天候などで予定が狂ってしまうこともあって……」
『そん時、赤橙の祖先が手を貸したそうでな。それ以来の付き合いだ。ここ三十年くらいはザクロが担当してる』
ミントとミソカが次々に言うが、スグリには『紅葉流し』という行事があることと、それを伯母が手助けしている、ということしか分からない。
「紅葉流しって、どういう行事なの?」
スグリが尋ねると、ミント達は顔を見合わせる。やがて、ミソカが口を開いた。
「……でしたら、参加してみますか?」
***
ミソカの提案に、ミントは最初こそ渋ったものの了承を出した。
曰く――『知っといても別に得は無いが、損も無いな』とのことだ。
ミソカ達が棲むのは山奥で、普段は人間が立ち入ることが不可能な場所だが、持っている巾着袋であっという間に移動できるらしい。以前の月夜の茶会で一面の薄の原に出た時と同じ感じだ。
そもそも、彼らが棲む場所は人間がたどり着けないよう術が掛けられている。一族の案内が付かないと、見つけることすらできない。
山に入るため、動きやすい服装に着替えたスグリは店に『CLOSE』の看板を出して鍵を掛けた。
「それじゃあ、行きましょうか」
ミソカが黒い巾着袋を開く。ざあっとたくさんの葉が風で揺れる音が聞こえて――
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