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僕は憤った。
別に、レアが自分の意思で望んで女の子っぽい姿をしているならそれは何も問題ない。だが、彼は本来は“俺”と言うくらい少年らしい少年で。その自分を無理やり抑圧され、女の子のふりをさせられているのだ。しかも、殴る蹴るのみならず、夜は無理やりベッドルームに引きずり込まれていた。しかも母親は父親を繋ぎ止めるため、我が子が虐げられているのを見て見ぬふりしているのだ。
こんなことがあっていいはずがない。しかもレアはそんな不遇な環境にも関わらず、自分のことよりも世界の平和を願うような心優しい少年なのだ。
僕は決意した。一人の人間を幸せにするくらいの干渉、別にどうってことはないだろう。僕はレアの父親が、事故で崖から落ちて死ぬように仕向けたのである。何、僕の力を使えば、父親が仕事から帰ってくる時にうっかり足を踏み外すように操作するくらいわけのないことだ。
本当は母親も許せないが、まだレアは小さな子供だ。保護者の存在は必要だろうと残すことにした。
約一年後。レアが九歳の誕生日になった時、僕は様子を見に行ったのである。案の定あの花畑がお気に入りらしく、彼は石碑の前でお祈りをしていたのだった。
「レア、久しぶり!」
「!り、リイン!?」
一年ぶりに会うリインに、レアは驚いた顔をした。どうやら僕のことを覚えてくれていたらしい。ちょっとお喋りをしただけの相手だというのに、彼は記憶力がいい。
ただ。
「一年前会った君のことが心配で。様子を見に来たんだけど……」
僕は言葉を失った。おかしい。どうしてレアはまだ、白いふりふりのワンピースを着ているのだろう。この国では、男性がスカートを履く文化は定着していないはず。ピンクの長い髪も女性がするように編み込みになっているし、女の子が使うようなキラキラしたヘアピンもつけている。
「レア、その恰好好きなの?……もう、お父さんはいないんだよね?」
「……やっぱり、俺には似合わないよね、こんなの。俺もそう思う」
父さんが死んだこと知ってたんだね、とレアは苦笑した。
「本当は、半ズボンとシャツで、思いっきり走り回りたいんだけどさ、それは駄目って母さんが言うんだ」
「どうして……」
「母さんの再婚相手が、こういうの好きだからって。俺が女の子みたいな姿してると嬉しいんだってさ」
僕はレアとしばし他愛のない話をして、別れた。彼の前ではどうにか笑顔を作ったものの、僕の腹の底は煮えくり返っている。
父親を消せばそれで済む、と思っていた。でもそんな甘い話ではなかったのだ。母親はそもそも、自分と結婚してくれる男を放したくなくてレアに犠牲を強いていた。父親がいなくなれば、他の男に縋る結果は見えていたではないか。
――ならいいさ。
僕は拳を握りしめる。
――今度は、その男を殺すまでのことだ。
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