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レアの母親は、気が狂って線路に落ちて死んだ。
レアは孤児院に行くことになった。彼が一番良い孤児院に行けるよう、事前に手回しをすることも忘れない。あの孤児院ならば先生も優しいし、子供達もみんな親切だ。これ以上レアが嫌な目に遭うようなこともきっとないだろう。
ああ、それなのに。
「久しぶりだな、リイン!」
花畑にて。十三歳になったレアと再会した僕は、言葉を失ったのだ。
レアは髪をボブカットの長さまで切り、体つきも少し少年らしくなっている。何より、キラキラとした笑顔を僕に向けていた。十一歳から、この二年間。彼が孤児院でまともな暮らしができていたことの証明だろう。
だが。
「なんで、軍服姿なの……!?」
彼は兵隊の恰好をして、花冠をお供えしていたのである。これか、とレアは右腕を持ち上げて告げた。
「俺、兵隊になることにしたんだ。足も速いし、体力もあるからな!この国は、もうすぐ戦争になる。その時少しでも優秀な兵士の力が必要だ。俺は大好きな孤児院のみんなや先生たちを、自分の力で守りたいんだ」
「ま、待ってよレア!覚えてないの?戦争なんて嫌だって、君はそう言っていたじゃないか!!」
「もちろん嫌だよ。でも、人一人の願いで、戦争は止められないんだ。起きてしまうというのならば……その上で、どんな選択をするか自分で決めるしかないんだよ」
彼が言うことは尤もだ。しかし、僕は承服できなかった。もうすぐ戦争になるだろうということは知っている。けれど、イリスゲート王国が他国としようとしている戦争はいわゆる“負け戦”だともわかっていた。戦場に行ったらまず、彼のような少年兵は生き残れない。ましてやこの国は、兵士の育成があまりにも下手くそであることも知っている。新兵が、ろくな訓練もなしに最前線に送られて捨て駒にされる未来は目に見えているではないか。
「駄目だよ、レア!僕、君に死んでほしくないよ!」
僕の言葉に、それでもレアは笑うばかりだった。
「ありがとう、リイン。君のような友達がいてよかったよ。でも俺は、もう決めたんだ」
レアが戦場で死んだのは、それから一年もたたずしてだった。
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