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これでは駄目だ。こんな最悪の結末になるようでは、結局元の木阿弥だ。
――レアの父親たちと母親を殺したところは間違ってないはず。あの孤児院にレアを送ったところまでは正しかったはず!だったら……この国の戦争を、どうにかして起こさせないようにするしかない!
時間を戻して、戦争の種を潰すことから始めた。
そもそもイリスゲート王国と他国の戦争のきっかけは、とある島の所有権争いから始まっている。大昔の別の戦争で権利が宙ぶらりんになっていた一つの島。イリスゲート王国とランガ帝国双方が自分のものだと言ってはばからないその島から、よりにもよって貴重な燃料がわんさか出てきたのだ。
大昔の戦争のせいで、イリスゲート王国は未だに貧乏だ。なんとしてでもこの島を手に入れて強国に返り咲きたい。そのためにはランガ帝国が邪魔だ、と自ら戦争を仕掛けにいってしまうというのがおおよその流れである。そして、最終的にはあっけなく返り討ちにあってしまうというわけだ。その最中で、レアも戦死してしまうのである。
戦争を始めると言い出した国王を暗殺し、穏健派の王子を国王に据えてみた。しかし、その王子も軍部の人間に丸め込まれて結局戦争の道を突き進んでしまう。
ならば戦争をした軍部の連中を一掃すればどうか?そうなると、軍部が大混乱に陥り、結局戦争をするべき派とやめるべき派で内乱が勃発。そうこうしているうちに逆にランガ帝国に侵略されてしまうという結果に陥った。
そもそも島を手に入れなければイリスゲート王国はじり貧である。貧乏がすぎて、国民達が飢えて内乱が起きて自滅の道へ突き進んでしまうということもわかった。どんなルートを辿っても、結局レアは救われない。
――もっと、もっと大規模に改変しなきゃ。時間を戻し、邪魔者を消して、それで、それで。
僕は、いつの間にかフラウに言われたことをすっかり忘れてしまっていた。レアを幸せにするという名目で、世界を自分の思い通りに動かすことに躍起になっていたのである。
最終的には、“平和を愛し、優しく、他国と上手に交渉して戦争に勝つか早期講和を結べる王様がいればいい”という結論に落ち着いた。僕は、人の心を操り、時間を捻じ曲げ、法律を変え――レアを王様にするように誘導したのである。彼が王様になればきっと、優しく美しい世界が出来上がるはずだと。
そう、思っていたのに。
「やあ、久しぶりだな、リイン。我が友よ!」
ニ十歳になったレアは、玉座に座って笑った。
「俺はやるぞ。世界を我が国が統べ、それにより争いをなくしてみせる!そのためには多少の犠牲はつきものだ、そうだろう?」
「れ、レア……」
歪み歪んでしまったものは、元に戻らない。戦争に負けなかったことで、イリスゲート王国は過激な軍国主義を突き進んでいた。そしてレアは、“この世界を統べてイリスゲート王国が支配することで平和を実現する”という夢を抱いてしまっていたのだ。
その道の途中には、恐ろしい数の屍の山が転がっているに違いないのに。
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