僕とゴンザレス

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 我が家には雄のチワワがいる。  名前はゴンザレス、10歳。そろそろ、おじいちゃんに差し掛かる歳だ。赤ん坊のゴンザレスがやってきたのは、僕が3歳の誕生日を迎えた日だった。  一人っ子だった僕に、兄弟の代わりにでもなればという、両親の想いを込めたプレゼントだったのだろう。  僕とゴンザレスはその日から親友になった。  僕一人だとゴンザレスを散歩させるのは心配だからと、父か母がいつも一緒に付いてきてくれた。時には親子3人でゴンザレスと散歩に出た。  僕たちはよく駆けて、よく遊んだ。  ボールを上手く投げられない僕にかわって、学生時代は野球をやっていたと言う父が投げてくれた。鞭のようにしなる腕から放たれたボールは、綺麗な弧を描き空へと吸い込まれていった。  ボールを懸命に追う僕たち。  小さなゴンザレスは僕に敵うわけがなく、いつも僕が先にボールを捕まえた。  あの日から10年……僕も13歳になった。  僕たちは今も散歩に行くけど、父がボールを投げてくれる事は無くなった。ゴンザレスは年老いてボールを追わなくなったし、僕も喜んでボールを追いかける歳でも無くなった。  歳を取るのは本当に早いものだ。 「誕生日会の用意が出来たぞ! 庭においで!」  父が僕とゴンザレスを呼ぶ。  大きな庭で誕生日会をやるのが我が家の恒例なのだ。フフフ、昼下がりだと言うのに、父と母はもうビールグラスで乾杯している。幸せそうな両親を見るだけで僕も幸せになる。  芝生に横たわった僕と、ゴンザレスの目が合った。 「なあ、ゴンザレス。ちょうど10年前にお前がウチに来たんだぞ。憶えてるか?」 「ああ、早いもんだな」  ゴンザレスは、そんな風に返事をしたように聞こえた。多分、そう答えてくれたんだと思う。 「ほうら、ロペスとゴンザレス! お前達にもご馳走だ! 今日は好きなだけ食べていいからな!」  父の呼びかけに、僕とゴンザレスは大きく尾を振って父の元へ駆けた。 〈了〉
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