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 私は、これまでの過去に大変満足している。 自分の選択に後悔することはあるが、 幸運にも自分の中だけで留まり、 世に暴露されることはなかった。 その安心感に浸り、大きな充実感と肝の冷たさを時々思い出す。 その実が大きく育つほど、冷たさは一層際立ち、穴が開いたように冷えて固まり、 底に落ちついている。 誤魔化しは効くが、忘れることはできない。  「なにか希望はある?」と向かいの席に座る彼女が聞いてきた。 私は、コーヒーカップを持ちながら自分の部屋は欲しいと伝えた。 彼女は、風呂トイレは別がいいとか、 南向きがいいとか、 キッチンは広いところがいいとか。 呟きながら部屋探しサイトのチェックマークを次々に押していく。 家賃の上限は? いつから探し始める? お互いの家にあいさつしに行かなくちゃね。 一回不動産屋さんに見に行ってみない? 私は吐く息に音を乗せるように答えていく。 言葉の便利さにありがたみ感じていた。 決して乗り気でないわけではなかった。 しかし、将来の話となると、殊に期待を膨らませた幸福そうな彼女を見ると、 今まで上手く大人を演じていた幼稚な自分が表れてくるのだ。 どちらの自分が本来の自分なのかはもはやわからなくなっていた。 少し影を落とした彼女が目に入り、人間は都合よく鈍感でいてはくれないものだと 鼻から大きく息を吸って、音が聞こえないようゆっくり吐いた。 「そろそろ行こうか。」 「そうだね。」 伝票をもって立ち上がると、 奥に立っていた女性が一歩目だけ跳ねるように動き始め、レジに向かっていった。 彼女に預けていた財布を受け取り、支払いを済ませる。 押戸を開けて外に出ると、冷たい空気が火照った耳に冷たさを与えていた。 「次の休みはどこに行こうか。」 「どうしようね。」 くすんだ声色が滲む。 辺りの影の境界はぼやけていて、とても冷えていた。
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