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1-3
父の実家の扉はとても軽かった。
父も母も働いていたため、私はたびたびこの家に預けられることが多かった。
玄関に入っても出迎えはなく、
叔母の名前を呼びながら断りもなく上がり、リビングに入っていった。
私も同様に、名前を呼びながら入る。
私は叔母の名前をちゃん付けで呼んでいた。
リビングには、座椅子に取り囲まれた大きいこたつ机が置いてあり
一番奥の席に叔母が座っていた。
ほかの座椅子は空いていて、
安堵と少しの不安が同時に肺を満たした。
「祥貴、いらっしゃい。」
「うん。」
私は頷いて、角を挟んで隣の座椅子に座る。
父が、お礼としての謝罪をならべ
迎えの時間を伝える。
「今日は、茂雄さんは仕事なのか?」
「ええ、18時には帰ってくるわ。」
私の安堵は、また重さを増した。
私は、叔母の旦那さんが好きではなかった。
(他人は自分の思っている以上に、自分に興味がない。)
それを知ることができるまでに、私は随分な月日を要した。
当時の私は、無興味と嫌悪の判断をつけることができず、義理の叔父の無興味を恐れていた。
今日は、優しさで彩られた無興味に触れずに済む。
漸く背もたれに背中を預けることができた。
「陽菜は?」
「降りてくると思うわ。」
「わかった。」
二階の廊下を歩く足音が聞こえると同時に
父が玄関に向かった。
「じゃあ、もう行くよ。すまんが頼むな。」
そういうとリビングを出ていった。
玄関の方で父の話し声が聞こえる。
「あ、たかちゃん。」
「おう、陽菜。今日は、祥貴頼むな。」
そういって、頭をなでる。
「何時に迎えに来るの?」
「17時くらいかな。」
「もっとゆっくりでいいよ」
父は笑顔を見せ、頷いて帰っていった。
彼女は私の名前を呼んで隣に座った。
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