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 陽菜は、両膝を胸につけて丸くなって座っている。 叔母が彼女についての話を教えてくれる。 時折、苛立ちを見せながら彼女が反論する。 空気を乱さないよう、適切な反応を続けた。 彼女に肩入れしすぎないよう。 叔母の味方でもないように。  退屈していると思われることを嫌い 何度か言葉を発する時期もあった。 然し、幾度となくこの家に足を運ぶことで、 いつしかその懸念を払拭した。 彼女たちは、喜んで私に話して聞かせる。 私も喜んで受け入れた。 「陽子さん、お昼はどうしましょう。」 祖母がそういって、キッチンへ向かい 冷蔵庫を開ける。 「素麵があったはずよ、この間お父さんが貰ってきましたの。」 そういって立ち上がった。  私は嬉しかった。 素麵が好きなわけではない。 食べたいものを聞かれなかったことが嬉しかった。 欲を伝えるのはどうしても躊躇ってしまう。 善意の前に無欲を転がすことも恐ろしいことだ。 食べたいものを伝えられなかったことで後悔したことはない。 幼さを盾にできるなら、 素直に欲を衒うのではなく 黙して享受する立場に甘んじたかった。 私はこの上なく欲深い子供だった。 「祥貴。ご飯食べたら、外に行こう。」
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