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1-5
彼女は先にあの軽い扉を開けて外に出ていった。
あの扉が閉まるまでに私も出よう。
簡単な誓いを立てて、急いで靴に足をねじ込んだ。
地面をつま先で叩いて、迫りくる扉とハイタッチするように押し返した。
靴のクッションが丸まり、踵で引っ掛けるように直す。
彼女は私に一瞥をくれると、先に歩き出していた。
敷地を抜けると、すぐに小さい橋があった。
橋というよりは、小川にかけられた小さな道路であったが。
立ち留まって見下ろすと、土色の水が白い空気を孕んでいた。
彼女は興味がなさそうに目をそらし、以前祖母と行ったことがある
川の切れ目まで歩こうと言い出した。
橋を戻り、車で通った道とは逆方向へ進んだ。
彼女は、草を一本引き千切り、小さくいじりながら友達の愚痴や喧嘩の話。
父親に連れられて行ったプールの話。
テレビや漫画の話を矢継ぎ早に続けていた。
喧嘩の話のときは、どうしても彼女に肩入れしてしまう。
自分に有利な内容しか話していないためだろうか。
私の反応に彼女は満足していたようだった。
「祥貴は今日ご飯食べていくの?」
私が、父が17時に迎えにくるから、夕食前には帰るだろうと伝えると。
しきりに、食べて行くようにと説得し始めた。
彼女も迎えの時間は知っていたはずだった。
説得の機会を作りたかったのだ。
私にも、彼女にも決定権がないことを私は理解していた。
彼女にはそれがなかった。
彼女の拙い言葉で、どれほど時間をかけようと
私には決めあぐねるふりをして、彼女の希望に
埋まりたいことを態度で表すことしかできなかった。
それがまた彼女を助長した。
「お母さんに聞いてみるね。」
その言葉は、再び私を不安と体裁のための思考に沈めた。
彼女は道を引き返した。私も後ろを追っていく。
雨を纏った雑草。輝いて見えたなどとは言わない。
ただ、時を経た今もなお、そこにある気がしている。
記憶は美化されるものだろう。
然し、あえて穢そうとは思えなかった。
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