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彼女は先にあの軽い扉を開けて外に出ていった。 あの扉が閉まるまでに私も出よう。 簡単な誓いを立てて、急いで靴に足をねじ込んだ。 地面をつま先で叩いて、迫りくる扉とハイタッチするように押し返した。 靴のクッションが丸まり、踵で引っ掛けるように直す。 彼女は私に一瞥をくれると、先に歩き出していた。  敷地を抜けると、すぐに小さい橋があった。 橋というよりは、小川にかけられた小さな道路であったが。 立ち留まって見下ろすと、土色の水が白い空気を孕んでいた。 彼女は興味がなさそうに目をそらし、以前祖母と行ったことがある 川の切れ目まで歩こうと言い出した。 橋を戻り、車で通った道とは逆方向へ進んだ。 彼女は、草を一本引き千切り、小さくいじりながら友達の愚痴や喧嘩の話。 父親に連れられて行ったプールの話。 テレビや漫画の話を矢継ぎ早に続けていた。 喧嘩の話のときは、どうしても彼女に肩入れしてしまう。 自分に有利な内容しか話していないためだろうか。 私の反応に彼女は満足していたようだった。 「祥貴は今日ご飯食べていくの?」 私が、父が17時に迎えにくるから、夕食前には帰るだろうと伝えると。 しきりに、食べて行くようにと説得し始めた。 彼女も迎えの時間は知っていたはずだった。 説得の機会を作りたかったのだ。 私にも、彼女にも決定権がないことを私は理解していた。 彼女にはそれがなかった。 彼女の拙い言葉で、どれほど時間をかけようと 私には決めあぐねるふりをして、彼女の希望に 埋まりたいことを態度で表すことしかできなかった。 それがまた彼女を助長した。 「お母さんに聞いてみるね。」 その言葉は、再び私を不安と体裁のための思考に沈めた。 彼女は道を引き返した。私も後ろを追っていく。 雨を纏った雑草。輝いて見えたなどとは言わない。 ただ、時を経た今もなお、そこにある気がしている。 記憶は美化されるものだろう。 然し、あえて穢そうとは思えなかった。
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