ジャムよりも甘く

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 栄養不良からなのか、俺の体はガリガリで骨のように細く、身長も伸びなかった。日に焼けると赤くなるのだが、日焼けして肌が黒くなることはほとんどない。  ずっと一人でいた俺には、最早寂しいという感覚が無い。ただ、食物を買いに行けば、許されているとは言え、カビのはえたパンをようやく売ってもらえる程度、野菜をおろしに行けば、買いたたかれる毎日だ。切り詰めて生活している。ボロボロの服を何度も直しながら着ているけれど、サイズも合わず、家に残されていた父の大きな服を、嫌でも纏うしかなかったから、俺の首元は鎖骨まで出ている。ボサボサの黒い髪は、自分で切っている。  おそらく生涯、俺はみんなに嫌われながら、このようにして生きていくのだろう。  それは、仕方が無いことだ。  コンコンと、ノックの音がしたのはその時のことだった。ベッドとテーブルと椅子が二脚しかない平屋の居間にいた俺は、不思議に思って扉を見る。この村には、俺の家にくる人間なんていない。葬儀があっても、俺の方は協力しなくていいことになっている。フォークの子が来るなんて、忌々しいと断られる。だから、本当に誰も来ない。  立ち上がり、空耳だろうかと考えながら、俺は扉を開けた。 「こんにちは、きみが?」  するとそこには、神々しいほど美しい青年が立っていた。茶色い髪は艶やかで、瞳は形の良い緑色。薄い唇で弧を描いていて、長身の人物だった。俺の名を呼んだその人は、黒い聖職者の正装をし、首からは銀の鎖の十字架をかけていた。それを見て、聖アルベス教会の聖職者だと分かった。小さい頃は、俺も村に唯一の教会に、ミサにいったものだ。 「はい、そうです」 「僕は新任の牧師で、ユイフェルというんだ。前任のファーマ牧師が老齢で職を退いたから、王都大聖堂から代わりに派遣されてきたんだ。それで今、村中にご挨拶をしてたんだよ。その最後が、ここだったんだ。よろしくね」  ニコリと笑っている人の良さそうな牧師様を見て、俺は困惑しながらも、無理に口元だけに笑みを浮かべた。ミサに行くことも許されてはいないから、俺が宜しくする機会は、それこそこの挨拶くらいのものだろう。 「よ、よろしくお願いします」 「気楽に話してくれていいよ。僕は村のみんなと仲良くしたいんだ」 「……そ、そうか」
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