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俺はみんなに嫌われている。
理由は、単純明快だ。俺の父親が〝フォーク〟だったから。
フォーク自体が、予備殺人鬼と呼ばれて、みんなに怖がられている。その中にあって、俺の父親は、本当に殺人鬼だった。当時王宮に所属する宮廷画家だった父は、好みのケーキを見つけては、アトリエに連れ帰って、酷い目に遭わせて、その姿を絵画にしていたのだという。生み出された油絵自体が証拠となり、アトリエからはたくさんの被害者の痕跡が見つかって、父は騎士団に捉えられて、処刑された。
俺と母が暮らしていた小さな村では、そのことは大騒ぎになった。
単身で王都に出かけていた父が、そんなことをしているとは、俺も母も知らなかった。それを知ると、母は自分の手で命を絶った。俺を道連れにしようと、最初に俺を崖から海に突き落としたのだけれど、俺は岩にぶつかるでもなく、岸辺に流れ着いて、一命を取り留めた。そして母だけが亡くなった。俺が十三歳の時だ。
俺を助けてくれた漁師達ですら、『フォークの子だと知っていたら、助けなかったものを』と、俺に聞こえる声量で、軽蔑するように俺を見ていた。
それから一人きりになった俺は、残された村の外れの小さな家で、一人で暮らしている。もうあれから五年になるが、俺を雇ってくれる場所もないから、この村から出て行くこともできない。俺は、フォークではなかったけれど、皆が、『殺人鬼の家族』として俺を見る。そもそも俺がフォークで無いと思っているのは、俺には味覚障害がないからだけで、後天性にそうなるのであれば、俺はこれからケーキと出会ったら、自分もフォークだと発見する可能性がある。俺は、それが怖い。自分は普通の人間だと言い聞かせている。
ただ、フォークもケーキも、世界にはほとんどいないというし、少なくともこの小さな村には一人もいないから、俺が仮にフォークだったとしても、ケーキと出会うことはないだろう。
完全に村八分の俺だが、僅かな食料を購入することと、疾病時と葬儀だけは手を貸してもらえる。そのほかは、家の横の畑を耕し、井戸から水をくみ、ほとんど自給自足の生活を送っている。だから小さな村では本来、ほとんどみんなが顔見知りだけど、俺はみんなを知らない。ただみんなは俺を知っているという状態だ。
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